アメリカで見直される小規模農場(2)-「行動の時」の背景と意義(2001年発表)-

アメリカで見直される小規模農場(1)-「行動の時」の背景と意義(2001年発表)-はこちらを✓

 

■ 2-3 小規模農場の公的価値

本委員会は小規模農場の持つ多様な公的価値を次のように認めています(「第3章 序」から要約)。

1、多様性

小規模農場は所有権、作付体系、景観、生物構成、文化そして伝統の多様性を体現する。

多数の小規模農場からなる地域社会は、地域住民のみならず、

都市住民にとって特に貴重な多様で見た目に好ましい農村景観と空地空間を与える(写真3)。

 

2、環境益

アメリカの全農場の約60%は180エーカー(=73ヘクタール)未満である。

これは農地の大半が多数の小規模な農家によって管理されていることを意味する。

営農活動に取り囲まれた自然資源―土壌、水、野生生物―の責任ある管理は

社会が享受すべき重要な環境益を生み出す。

 

カリフォルニア州コラリトス

写真3: カリフォルニア州コラリトスの小規模な有機農場

多種類の野菜を栽培し、 主にファーマーズ・マーケットで販売している

 

3、自己管理能力の付与と地域社会の責任

分散した土地所有は、より強度な社会資本と同時に、

農村社会の人々により公平な経済機会を提供する。

 

土地所有者自らが管理する農場では自己雇用と業務管理の機会が生まれる。

これにより、強い責任感と工場の流れ作業労働者には得がたい自分の人生に対する

自己管理の感覚が与えられる。

 

4、家族の居場所

農場、特に家族経営農場は子育ての場あるいは

責任感と勤勉を身に付ける場となり得る。

農業の熟練技術は世代から世代へと家族所有の構造のなかで伝承される。

 

5、食糧への直接的つながり

(アメリカの)わずか 2%未満の国民が農業に携わるにすぎない今日、

多くの消費者は農業や食糧生産とほとんど関わりを持たない。

その結果、彼らは行楽地を除き、自然とのふれあいに欠け、

われわれの存続に必須な食料生産のための営みである農業を認識していない。

小規模農場によるファーマーズ・マーケット(写真4)*、提携(写真 5)

**、直売を通じて、消費者は彼らの食料の生産者と直接つながり始めている。

 

* 定期的に開催される青空市。

自分で栽培または製造したものしか売ってはならないのがルール。

2000年現在、全米に2863のファーマーズ・マーケットがある

(2000 National Farmers Market Directory による)。

 

** CSA:Community Supported Agriculture。

日本の有機農業運動の提携が起源といわれている。

現在全米で3万~5万人が提携により食料の主要な部分をまかなっていると推定される。

 

カリフォルニア州アプトスのファーマーズマーケット

写真4:カリフォルニア州アプトスのファーマーズ・マーケット。

毎週土曜日午前中に公共駐車場で開催。野菜、果実、切花を中心に、

鉢植え、蜂蜜、魚類、パンなどが販売されている

 

カリフォルニア大学サンタクルーズ校農場のCSA小屋

写真5:カリフォルニア大学サンタクルーズ校農場のCSA小屋。

登録した消費者は週1回この小屋にダンボール箱に入った野菜・果実・切花を取りに来る。

その際小屋の裏にある花畑で自由に花を切って持ち帰ることができる。

 

6、経済的基礎

歴史上、アメリカの農場数の減少は

生産力と出荷量の増加によって十分に相殺されてきた。

しかし、これはウィスコンシンのような

多数の中規模家族経営酪農を特徴とする州には当てはまらない。

 

1988 年以来、ウィスコンシン州で生産される総牛乳量は低下しており、純益も減少している。

この場合、酪農家数の減少は州の経済産出量の低減を意味する。

 

■ 2-4 21世紀の小規模農場の展望(第5章全文)

小規模農場に関する委員会は、

アメリカ農業の将来の選択について確信する

:小規模農場はトーマス・ジェファーソンの理想に根ざしたわが国の礎であり、

核となる農業のあり方として認識されてきた。

わが国の小規模農場への深い歴史的関わりとともに、

21 世紀のアメリカ社会復興における小規模農場の発展に向けて、

われわれは献身の念を新たにする。

 

黒人、ヒスパニック、アメリカ原住民、アジア系住民、女性、その他の少数民族は

わが国の食糧生産に計り知れない貢献を果たしており、

その貢献は認識され、報われねばならない。

 

われわれは農家個人の管理と熟練と工夫を尊重する農業生産体系を用いて、

小規模農業をより強く、繁栄させることを決意する。

また政府あるいは民間の主導、適切な研究と普及の応用、新しい市場機会の促進など、

責任ある支援体制によって実現する小規模農場の競争的な利益を構想する。

 

小規模農場と農場労働者が保護的環境下で成功するにつれて、

彼らはわが国の食糧供給に貴重な貢献を続けるのみならず、

地域経済を活性化し、アメリカ全土にわたる農村社会に活力を与えるであろう。

 

その繁栄の過程で、

小規模農場は地域社会と国に自己雇用と土地所有の機会を提供し、

文化的・伝統的生活様式と家族を育てる養育の場所をも供して、

社会の強化に貢献するであろう。

 

われわれは小規模農場の価値を認識する公的政策を強調し、

積極的にその成長と継続を奨励する。

これらの政策は本展望の実現に不可欠であり、

同様に農業労働者とその家族の貢献を認識しそれに報いる政策も重要である。

 

以上の目的に向けて、当委員会は政 策目標を設定し、

農務長官、行政府、議会の意思決定を次世紀に導くため、特定の勧告を策定した。

 

2-5 連邦農業政策の指導原則 (第6章全文)

われわれは農業政策の決定がアメリカの農業体系の構造に影響を与えるため、

以下の 指導原則を遵守するよう勧告する。

 

1.安全で健康な食糧

農業政策は安全で健康的で、

多様な食物を生産する農業システムを奨励すべきである。

 

2.農家と消費者の関係

農業及び食糧政策は農家が消費者の要求に答えられ、

かつ消費者間で農業への関心が高まるように、

農家と消費者が直接つながるより多くの機会を創出すべきである。

 

3.地域社会

農業政策は農村社会を維持・強化し、

文化的多様性と伝統的生活様式を祝福する農業を支持すべきである。

 

4.天然資源の管理責務

農業政策は国土、水、大気の責任ある管理と保護への報奨を勧めるべきである。

 

5.農家と農場労働者の安全で責任ある地位

農業政策は農家とその労働者の安全で

責任ある労働環境下での労働を可能にすべきである。

 

6.公平で開放された市場

公共政策はあらゆる規模の農家に公平で価格差別のない、

開放された市場における活発な競争をもたらすべきである。

さまざまな農産物、農家、消費者のために多様な市場づくりを努力すべきである。

 

7.多くの人々への機会の提供

アメリカの農業政策はより多くのアメリカ人に

農場所有と営農により生計をたてる機会を開くべきである。

 

農場を欲する人々に、

賃貸または購入により土地や他の生産資材が入手できるようにすべきである。

農場所有権または営農への参加における個人の選択11肢と能力は、

人種、姓、他の長所でない事項および人口統計上などの

いかなる特性によっても妥協または排除されてはならない。

 

8.農場収入

農業政策は農民に他の経済分野と

同程度の農場収入を得られるよう機会を増やすべきである。

生産資材と加工・流通分野に関連して、農家と畜産農家の

農業システム収入のシェア減少という長期的傾向を逆転させるよう努力しなければならない。

 

3.アメリカ農業の理想と現実

■ 3-1.「行動の時」と農産物貿易自由化政策の矛盾

「行動の時」が公表された翌年(1999 年)の11月、

アメリカのワシントン州シアトルでWTO(世界貿易機関)閣僚会議が開催されました。

会議上アメリカは輸出補助金の廃止と農産物への関税引き下げを主張して、

農業を「国土における歴史的、文化的、かつ環境的な存在」としてとらえ

多額の農業補助を行なっている欧州連合、

同様に農地の「多機能性」を主張する日本などと対立し、交渉は決裂しました。

 

WTOに反対する過激な抗議行動のニュースとともに、

これを記憶される方は少なくないでしょう。

 

アメリカの小規模農場の支援をうたった「行動の時」の内容が、

上記のWTO閣僚会議における欧州連合と日本の主張に類似していることは、

まさに皮肉です。

 

食糧・開発政策研究所のピーター・ロセットは、

アメリカ政府が農産物の自由貿易から一歩下がって、農業の多機能性を尊重し、

各国にその食料と農業に関する真の主権を認めるよう訴えています。

彼は食料輸出によって世界中の小規模農場を傷つける政策を深化させるかわりに、

小規模農場の経済を発展させる政策を実行すべきであり、

そうすることで、貧困、飢餓、低開発、さらに各地域における

農業生態系崩壊の病根を断つことができる、と主張しています。

 

ロセットのいうように、

自国の小規模農業の価値を認めながら他国のそれを顧みず、

農産物の貿易自由化を求めるアメリカ政府の態度は、

明らかな自己矛盾に陥っています。

 

はたして、国内での小規模農業の見直しが

今後の貿易政策の転換にまでつながり得るのか*

その予測は筆者の能力を超えますが、少なくともそうすべきだという主張が

アメリカ国内にもあることを知っていただきたいと思います

(ロセットは日本の農業の多機能性に基づく農業保護政策を積極的に評価しています)。

 

*例えば、1997 年8月1日付けの日本農林水産省の海外農業情報

(http://www.maff.go.jp/soshiki/keizai/kokusai/kikaku/main.htm) は、

小規模農場に関する委員会の設置を発表したアメリカ農務省

グリックマン農務長官の発言として、次のように伝えている。

「グリックマン長官によれば、同委員会は9月30日までに、

大規模経営に影響を与えることなく、小規模農家を守るために何ができるかについて、

政府、非営利組織、民間部門がそれぞれ、報告をまとめる予定である。」

(太文字筆者)

 

■ 3-2.アメリカ農業の理想

ところで、「行動の時」がアメリカ民主主義の根底として

ヨーマン的農民を思い描いたトーマス・ジェファーソン(1743-1826)に

捧げられたことからうかがえるように、元来アメリカ農業の理想は、

近代化や利潤をひたすら追求するものでは決してありませんでした。

 

いまから約100年前、コーネル大学農学部の基礎を作ったベイリーの言葉にも、

理想的な農業のあり方が示されています。

 

「理想的な農業は自ら持続する。すなわち同じ土地の上に、

その資源によって永久に繁栄することができる。

土地は時がたつにつれて外部からの肥料物資の援助がなくとも

その生産性を一層高められるのである。このことは混同農業の場合に可能である。

それには作物の輪作と家畜の飼育は欠くことができないのである。

どの農業でもそれが特殊なものになるほど、多く外部に依存せざるを得ない。

そして人工の援助の継続が必要となる。」

 

自身で永続する産業は、政治的社会的制度の安定を助ける。

国の真の、そして永続的繁栄は農業が発展して

自らを支えるようになったときにはじまる。

木材を伐り鉱物を掘るのは単に自然が貯蔵したものを利用することを意味し、

それらの産業には自ずから限度があり、

たえず奪われていない土地に移動しなければならない。

最善の農業は永久に同一の所に留まって、年々豊富に収得する。

しかしこの国では農業は今までは

主として植物養分を掘る鉱業のようなものであり、処女地を求めて殺到していた。」

 

富める農家よりも幸福な農家がより成功した農家である。

もし教育された農家が、無教育の隣人以上に小麦や棉の生産をあげなくとも、

彼の教育は決して無駄ではない。

なぜなら彼の心は他人の知らない無数の感化に対して開かれているからである。

人の幸福はとうもろこしの桝目よりは、人の抱く思想に懸かるところが多いのである。」

ベイリー「農業の原理」より(盛永俊太郎訳。太文字筆者)

 

しかし、上記でベイリーが触れているように、

現実のアメリカ農業史は開拓と産業化の歴史であり、

19世紀以降ジェファーソンやベイリーが理想とした農業のあり方が

アメリカ農業の主流となったことはありませんでした。

 

農家人口が全人口の2%に減少し、

利益と市場での支配力が少数の大規模農場へますます集中しつつある今日、

「行動の時」は、小規模農場の支援により

アメリカの伝統に根ざした農業のあり方の灯火を何とかして絶やさずに

維持・発展させようという、瀬戸際の決断といえるかもしれません。



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