第3回GIAコラボ講演内容-SDGsに向かって-

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第3回 GIA コラボ

沙漠緑化研究部会 x グローバル情報研究部会コラボシンポジューム
日本沙漠学会沙漠工学分科会第32回講演会、沙漠を緑にする会報告会

『沙漠 x ソーラー、太陽・水・土の共生』

SDGs(持続可能な開発目標)に向かって環境に配慮した循環型社会と農業の為に

世界地図

沙漠緑化とソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)をグローバルに展望する。

農大総研研究会

キャプチャ1 キャプチャ2

GIAコラボとは

グローバル情報研究部会/Global Information Association(GIA)は、アグリビジネスに関するグローバル情報を収集・分析・発信する事で新しい気づき・アイデアやビジネスの起点になる事を目的としたプラットホームとしてスタートしました。(gia-nodai.com)グローバルとは地球的と言う事ですからその中には日本も含まれますので日本の情報もグローバル情報になります。そして活動を続ける中で、グローバルの概念とは単に国の壁を超えて地球規模で物事を捉えると言うだけでなく身の周りにあるあらゆる壁を超えて考える事と同じ構図だと言う事に気が付きました。日本では縦割りの壁とかアメリカではサイロとか言いますが壁の内側にいるだけでは解決しない問題も複数のサイロを繋げ関係性を持たせることで新たな展開を産むことがあります。そこで、他の研究部会やグループとコラボレーションして産官学民が連携して多様な視点から自由にアイデアを発想することで実社会のビジネスや研究に活かそうと言うのがGIAコラボです。

今回は、沙漠緑化研究部会とコラボレーションしジブチ・モンゴル・日本の全く異なる事例をご講演頂き、それを総合討論することでとSDGsに向けた新しいアイデアを本日ここ東京農大横井講堂にお集まり頂いた会場の皆さんと考えてみたいと思います。

[プログラム]

12:55~13:00 開会の挨拶グローバル情報研究部会長立岩寿一東京農大教授

13:00~14:00 講演1  島田沢彦(Shimada Sawahiko)

東京農業大学地域環境学部生産環境工学科広域環境情報学研究室教授

「ジブチの沙漠に緑を-SATREPSプロジェクトによる

持続可能アグロパストラルシステムの実装-」

14:00~15:00 講演 2   吉原佑(Yoshihara Yu)

三重大学農学部資源循環学科国際資源利用学研究室准教授

「モンゴルの過放牧による生態系と家畜への影響」

15:00~16:00 講演 3   鎌田知也(Kamata Tomoya)

農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課再生可能エネルギー室長

「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の現状」

16:10~16:40 総合討論

16:40~16:45 閉会の挨拶沙漠緑化研究部会長豊田裕道東京農大客員教授

17:00~ 情報交換会       場所:レストランすずしろ

                                                              

ー 講演 1 ー

ジブチの沙漠に緑を 

-SATREPSプロジェクトによる持続可能アグロパストラルシステムの実装

島田 沢彦

平成30年度の地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)に,東京農業大学を主体とした研究チームの課題「ジブチにおける広域緑化ポテンシャル評価に基づいた発展的・持続可能水資源管理技術確立に関する研究」が採択され,平成31年度からプロジェクト研究がスタートすることとなった.これは,東京農業大学が25年以上に渡って培ってきたジブチでの研究成果が評価されたものである.本シンポジウムにおいては,これまでのジブチでの成果に触れつつ,今後5年間展開されるプロジェクト研究のビジョンについて紹介したい.

アフリカ大陸東北部の「アフリカの角」に位置する国々は,頻発する大干ばつにより貧困や飢餓の危機に常にさらされている.中でもジブチ共和国は,地溝帯の陸部北端に位置する立地条件の影響で国土の大部分を玄武岩で覆われた土漠の地表面環境であることに加え,年間降水量が50 ~200 mm程度,夏季の最高気温が40℃を上回る最も自然環境の過酷な国である.雨季が終了すると河川は涸れ,しばらくは堆積層中の地下水の利用が可能であるが,乾季の後半になると浅層地下水資源が減少し,地表の乾燥化が進む.このような環境下のジブチにおいては降雨に依存した作物栽培は成立せず,ワジ周辺において得られる浅層地下水のみが農業・牧畜・生活用水として利用可能となってきた.ジブチにおける農業従事者は人口の1%未満,遊牧を含む牧畜業従事者は25%程度(ICRC 2004)とされている.牧畜は伝統的かつ非商業的なものにすぎず,農業生産の割合はGDP の5%にも満たないこともあり,食料自給率は生産額ベースでわずか13%程度である(JICA/NTCインターナショナル 2014).

ジブチにおける農業の例として,浅層地下水を利用した野菜・果樹栽培と畜産の複合営農で成功している篤農家の存在があげられる.良好な水質の浅層地下水を取得できれば,このような成功例を増やすことにつながる.本研究でのアウトプットである緑化ポテンシャル図を農地開発評価に利用できれば,極めて低い農産物自給率(3%)の向上に寄与することができる.

本研究の目的は,乾燥地において効率的かつ持続可能な水資源の利用・管理手法を確立するため,ジブチにおける広域水資源ポテンシャル・緑化ポテンシャルマップの作成技術を開発・共有を図り,ジブチの緑化可能地域へ持続的農業・緑化モデルの提案に寄与することである.プロジェクト終了後も,ジブチ農業水産牧畜海洋資源省およびジブチ大学が,ジブチの緑化可能地域へ持続的農業・緑化モデルを展開できるシステムを構築することを目指す.

降雨流出による表流水,浅層地下水,および深層地下水に大別できるジブチの水資源について,広域的かつ立体的な分布と循環経路を明らかにすること,地下水の水質起因地質,自生植生の水利用メカニズムを明らかにすることにより緑化ポテンシャル評価および,最適緑化領域および最適緑化手法を示す.これらのアウトプットを踏まえ緑化適地にパイロットファームを展開し,緑化ポテンシャル図の有効性を実証するとともに,実装可能性に向けて,有用植物の選定,新しい飼料開発,堆肥作成技術の開発を含めた循環型アグロパストラル形態を確立する.また,遊牧民を受益者とする荒廃地緑化地区や都市ゴミを有効利用した粗放的農園造成地区も開発し,緑化が遊牧民の生活改善に寄与する機構を明らかにすることで,緑化の重要性および,他地域への適応可能性を示す.さらにこれらの成果が展開可能な地域への適用手法を示し,水資源の高効率利用による持続可能なアグロパストラルシステムの広域実装を目指す.

[プロフィール]

2001年 博士(地球環境科学)(北海道大学),博士論文テーマは多時期リモートセンシングデータを用いたインドネシア・中央カリマンタンの熱帯泥炭地の炭素蓄積環境把握

2001年 東京農業大学地域環境科学部 助手,モンゴル草地の植生・土壌広域環境研究を始める

2004年 東京農業大学地域環境科学部 講師,農大のジブチ研究に関り始める

2006年 東京農業大学地域環境科学部 准教授,沖縄漫湖湿地の調査を始める

2009年~2010年 ニュージャージー・モントクレア州立大学 Visiting Scholar,Chopping博士の下BRDF(双方向反射率分布関数)に関する研究に従事

2014年 東京農業大学地域環境科学部 教授,

スマート農業に関わるドローン(UAV)を用いた農地モニタリング研究を始め,現在,静岡菊川の茶畑,北海道平取の水田,静岡天竜のオリーブ畑,フィリピンバナナ,群馬板倉のキャベツ露地栽培畑の生育・病理モニタリングに関する研究に従事している

図2

                                                                  

ー講演 2

「モンゴルの過放牧による生態系と家畜への影響」

 吉原 佑 (よしはら ゆう)

モンゴル草原は非常に長い間持続的に放牧利用されてきた。ところが,近年の社会主義経済から市場経済への移行に伴い,家畜頭数が急激に増加している。1990 年代の初頭には1500 万頭であったものが, 現在では6500 万頭を超えている。それに加えて,気候変動や牧民の定住化と家畜の集落や河川への集中化が進み,過放牧が進行している。過放牧は植生の劣化や砂漠化など生態系のみならず、家畜や牧民の生活に様々な問題を引き起こしている。モンゴルのような乾燥地の草原は,一度健全な生態系が失われると回復には非常に長い時間を要する。したがって過放牧の実態と、草原の回復についての生態学的研究が不可欠である。

そこで本講演ではモンゴルの過放牧が生態系に及ぼす影響について、植生、土壌、家畜、水質、生物相の点から解説する。また、草原の回復手法として禁牧、火入れと潅木によるファシリテーションについても紹介する。

[プロフィール]

三重大学生物資源学研究科(国際資源利用学研究室)准教授

2009  東京大学農学生命科学研究科博士課程修了

2009 –  東北大学農学研究科 助教

2016 –  現在に至る

専門分野:生態学・畜産草地学

2016年 日本生態学会宮地賞 受賞

[講演内容に関する重要文献]

大黒俊哉 , 吉原佑, 佐々木雄大  (2015) 「草原生態学-生物多様性と生態系機能」東京大学出版会

Yoshihara Y., Chimeddorj B., Buuueibaatar B., Lhaquasuren B. & Takatsuki S. (2008) Effects of livestock grazing on pollination on a steppe in eastern Mongolia. Biological Conservation, 141, 2376-2386.

Yoshihara Y., Koyama A., Undarmaa J. & Ohkuro T. (2015) Prescribed burning experiments for restoration of degraded semi-arid Mongolian steppe. Plant Ecology, 216: 1649-1658

Yoshihara Y., Tada C, Takada M, Purevdorj N., Chimedtseren K., Nakai Y. (2016) Effects of water source on health and performance of Mongolian free-grazing lambs. Small Ruminants Research, 137: 81-84

Yoshihara Y., Sasaki T., Okuro T., Undarmaa J. & Takeuchi K. (2010). Cross-spatial-scale patterns in the facilitative effect of shrubs and potential for restoration of desert steppe. Ecological Engineering, 36, 1719-1724.

ー講演 3

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の現状について

農林水産省再生可能エネルギー室長   鎌田知也

  1. はじめに 電力自由化や平成24年度から始まった電力固定価格買取制度(FIT制度)等政策的後押しにより太陽光発電設備が爆発的に普及、その普及が太陽光パネル単価、建設コストを押し下げ、さらに拡大が図られるという太陽光発電普及の循環が生まれている。このような政策背景や参入障壁の低さから近年、農地で営農しながら上部空間で発電を行うソーラーシェアリングが注目されている。

植物が光合成を行うために必要な光の強さは植物毎に異なりこれを超える過剰な太陽光は成長にほとんど寄与せずその限界点を光飽和点と呼び、光飽和点を超える太陽光は過剰な蒸発散や高温障害等農作物の収量や品質に影響するとも言われている。適度な強度の太陽光で作物を栽培し、それ以外で発電行う、太陽光を農業と発電でシェアするのがソーラーシェアリングである。

  1. ソーラーシェアリングの政策的意義 農水省がこれまでのソーラーシェアリングの取組状況を分析した結果、荒廃農地を再生し営農を再開して発電事業と両立させた事例、これまでの農業収入に加え売電収入により農家所得の向上が図られた事例、新規就農者の不安定な農業経営を売電収入で下支えする事例などがあり、いずれも農政の喫緊の課題である荒廃農地解消、農家所得の向上、新規就農者参入促進・経営安定等に一定の効果が期待できるものとして評価、平成29年度から国は農業施策の一環としてソーラーシェアリングを促進しているところである。
  2. 海外展開の可能性 日本発の技術であるソーラーシェアリングは官民問わず海外の農業関係者や再エネ関係者の関心も高く、視察者も絶えない。海外での取組事例を正確に把握はしていないが、日射が強く高温で水資源が乏しい、また無電化地帯を多く抱える乾燥・砂漠地帯で、安定した食料生産と電気エネルギーの地域内供給を同時に実現する技術としても有望であろう。

[プロフィール]

昭和62年東京農工大学農学部農学研究科修了、農林水産省入省。

以来、主に土地改良事業に携わる。

3.11東日本大震災当時は東北農政局防災課長。職場・自宅も被災し、地震・津波・原発事故の恐怖を自ら経験・実感しつつ、初動対応、被災地の復旧に取り組む。

以後、農業用ダムを活用した小水力発電の計画、設計等を中心に再生可能エネルギーの推進に継続的に取組む。

平成29年4月より現職。

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