ガーナ北部における環境再生型農業の研究開発

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板垣啓四郎(日本財団特別顧問)

サハラ以南アフリカの人口は2022年に11億5,200万人であったものが、2030年には14億100万人、そして2050年には20億9,400万人へ倍増すると予測されている(United Nations, World Population Prospects 2022, p.5)。また、人口の都市化率もこの間堅調に上昇するものと見込まれ、これだけ増加する人口をはたして農村・農業部門が養えるのか、世界が懸念する重要な課題の一つに数えられている。

 一方、地球温暖化による気候変動およびこれに起因する土壌劣化、水不足、森林荒廃など農業生産を取り巻く環境は、サハラ以南アフリカでは一段と深刻な様相を示している。加えて農家においては、耕作農地は制限され、労働力は不足し、金融アクセスへの制約もあって高価な肥料や燃料を購入できず、生産性の向上を約束する技術も容易には利用できない状況におかれている。こうしたなかで、環境と資源の保全に留意しつつ生産性の向上をいかに実現すべきか、このことが喫緊の課題となっている。

 この課題を解くカギの一つが、サハラ以南アフリカに適した環境再生型農業(Regenerative Agriculture)の技術開発とその農家レベルへの普及である。環境再生型農業とは、土壌の劣化を防ぎその健全性を高めるために土壌に有機物を還元して土壌微生物を豊かにし、土壌中で分解した有機物に二酸化炭素などの炭素ガスを付着させ隔離することで炭酸ガスの大気への放出を抑制すると同時に、作物の収量を向上させ農家の食料確保と所得増加につなげるという農法である。

この技術開発と普及方法を検討するために、(公財)日本財団はつくばにある国際農林水産業研究センター(JIRCAS)に研究を委託し、現在、ガーナ北部で圃場を使った実証研究が実施されている。研究はJIRCASを中心に現地および国内外の大学・研究機関との連携で行われており、研究期間は2023年度から5か年の計画、本年はその初年度にあたる。

この研究では、土壌の健全性を担保するために未利用資源(もみ殻、畜糞など)の有効活用、圃場への緑肥や被覆作物の導入、最小耕起のための小型機械の導入、耕地内休閑システムの導入、低品位リン鉱石の肥料化、収益最適化モデルの提案、間作・輪作などの圃場管理技術、普及方法の開発など、多様な課題に取り組んでいる。研究の成果は、サハラ以南アフリカの地域特性に適合する形で開発技術の各要素がそれぞれの国・地域でパッケージとして組み立てられ、それが農家へ順次普及していくことを目指している。

 環境再生型農業が、サハラ以南アフリカにおける農業と農家の問題解決とその発展につながる切り札となることを期待したい。

試験圃場での混作栽培
もみ殻燻炭の製造

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