上野裕治の阿蘇レポート(1)

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上野裕治の阿蘇レポート(1)

はじめまして。熊本県阿蘇市に半定住している上野裕治といいます。まずは簡単なプロフィールから。

1951年、熊本市生まれ。1974年、東京農大農学部造園学科卒業。ゼネコン、設計事務所等の職を経て2006年、長岡造形大学建築環境デザイン学科ランドスケープ専任教授就任。2010年、東京農業大学大学院農学研究科環境共生学専攻修了(博士:環境共生学)。進士五十八先生の最後の生徒となりました。長岡造形大学を定年退職のあと、現在、福岡市と阿蘇市でフリーランスとしてランドスケープデザインや環境保全計画、樹木医の仕事をしています。また阿蘇市では、(公財)阿蘇グリーンストックの非常勤研究員として財団が環境省より受注した牧野環境調査などの業務にたずさわる一方、財団の一組織である野焼き支援ボランティアのメンバーとしても活動しています。今回はこの野焼き支援ボランティア活動を中心にレポートします。

写真1 阿蘇の牧野の夏(黒川牧野)

阿蘇の3月は野焼きのシーズンです。野焼きは1000年の歴史があると言われ、草原維持のための手法として古くから維持されてきました。春、野焼きをすることによりススキを中心とした草原植生が一度リセットされ、春の草花から順次夏〜秋へと植生が変化していきます。これに伴って植物に集まってくる昆虫類も変化していき、結果的に阿蘇の草原は人の手が入ることによる生物多様性の宝庫として環境省も認定しているところです。阿蘇の草原は基本的に放牧畜産(生産牛)の牧野として、畜舎飼育牛のための採草地として、そして一部では萱場として維持されてきました。しかし1988年のアメリカ産牛肉の輸入自由化以来、徐々に飼育される牛が減少し、結果的に野焼きによる牧野の維持をあきらめる農家が増えてきました。阿蘇の観光的魅力は何にも増して広々と広がる草原景観が魅力であり、野焼きの減少は直接的に景観変化ももたらし始めることにもなりました。

写真2 阿蘇の赤牛(短角牛メス)

このような背景のもとに1995年、阿蘇グリーンストックは「草原景観は国民共有の財産であり、これを後世に引き継ぐとともに、阿蘇の地域住民と都市住民、企業、行政をつなぎ、阿蘇の伝統文化と生業の維持・再生に取り組む。」という理念を掲げ、様々な活動を行ってきていますが、その中でも中心的な公益活動といえるのが野焼き支援ボランティアといえます。具体的な野焼き支援活動のスタートは1999年3月で、参加するにあたっては野焼きの目的や方法についての講義と火消し棒を作る「野焼き講習会」を受講することが義務づけられました。私の場合は初年度の講習会を受講しましたが、その年の野焼き本番はスケジュールが合わず、翌年2000年に始めて参加しました。それ以来21年活動を続けています。

野焼きは多くの人手を要するために、牧野組合員の家族や直接的に畜産に関わっていない地域関係者も参加します。したがってどうしても日曜日、祭日(たまに土曜日)に行われることになりますが、気象条件がそう思い通りにはなりません。今年の場合、私の担当する黒川牧野については、当初予定は2/28(日)でしたが強風注意報が出たために延期、次の週3/7(日)は悪天候(雨)のためにまたまた翌週に延期。このように日程が段々重なってくると阿蘇地域全域において同日に何カ所もの野焼きが行われることになり、ボランティアの人員配置は大変なことになってしまいます。全阿蘇地域で190ほどの牧野組合がありますが、現在その内の65組合をボランティアがサポートしており、野焼きと前年の秋に行う防火帯作り(阿蘇では輪地切りと呼びます)の両方で延べ2300~2500名ほどのボランテイアが参加しています。約半数が防火帯作り、半数が野焼きへの出役ですから、野焼きだけで1ヶ月に延べ1000~1500名の参加ということになり、スケジュールが1週間伸びるほどにやりくりが難しくなり、ひとつの牧野に配置できる人員がどんどん減っていくことになるわけです。ちなみに私の担当する黒川牧野では当初予定の2/28は25名、伸びて翌週3/7は一気に10名、さて再度伸びて3/14は何名配置できることやら・・・。本稿を書いている本日は3/9ですのでまだ調整しきれていません。今のところ3/14の天気は良さそうですので、阿蘇中から煙が上がることでしょう。外輪山を巡るミルクロード、中岳への登山道路、やまなみハイウエイなど、主要道路が一時通行止めになりますので一般交通や観光面でも大変です。警察、消防、十強によっては自衛隊も全員待機状態となります。

ところで、野焼きに先立ち前年秋に行う防火帯作り「輪地切り」も大変重要な作業です。防火帯の幅は約10mで、毎年全阿蘇地域で総延長は500km以上にもなります。近年ではボランテイアの参加により輪地切りのあと切った草を中よせして1~2週間干し、火を着けて燃やす「輪地焼き」まで行われる牧野が次第に増えており、しっかり作られた防火帯は安全性、安心感が格段に高まります。

本日のレポートはここまでとしますが、次回、野焼き本番のレポートを報告する予定です。お楽しみに。ではまた。

写真3 輪地切り(黒川牧野)
写真4 切った草を中寄せした状態
写真5 輪地焼き
写真6 防火帯(輪地)の完成

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