JUST WALK OUT

Written by Tai Takehara

私の知っているスーパーマーケットのオーナーに店のレジスターの音を聞くのが何よりも好きだと言う人がいた。物を買うときには一般的に2種類の買い方がある。店員と直接話をして商品を選んで代金を払う対面販売と、買いたい商品を自分で選んでカートに入れて全て入れ終わったらキャッシャーに行って店員にレジスターで合計してもらって代金を払うセルフサービスと呼ばれる買い方だ。人間が買い物と言う行為を始めてから1000年以上にわたって物を買う時には売っている場所に行って対面販売方式で買うしかなかったが、約100年前にアメリカでスーパーマーケットが登場してセルフサービスで一度に同じ店でお買い物が出来るようになった。

そして、21世紀の現在ついにレジスターのない店が登場した。人間はどんどん人と話さなくても買い物が出来るようになっていく。「Amazon fresh」というそのレジスターのいらないスーパーマーケットが家のそばにもオープンしたというので、日本に住んでいる方々より一足先に行ってその新しい買い物のシステムを体験レポートしてみたいと思う。

Amazonといえば1994年に書籍のインターネット販売からスタートして今や世界中で知らない人がいないくらい有名になったネット通販会社だ。2021年の年商51兆円のグローバル企業である。2017年にはナチュラルフーズ中心のスーパーマーケットWhole Foodsを買収しインターネットの空間から飛び出して実店舗による販売を始めた。Amazonという社名は、南米大陸に流れる大河アマゾン川のように大量の商品を流通させる企業を目指してつけて、奥さんと2人でスタートした会社だと聞いたことがある。そのAmazonがいよいよ食料品を売るスーパーマーケット業界にも進出し2020年にレジスターのいらない店舗をオープンし現在アメリカに約30店舗のAmazon freshがある。

まず店舗に着くと目につくのがパーキングにあるEV車用のチャージャー。買い物している間に無料で充電出来る。最近アメリカでもショッピングセンターやオフィスビルの広いパーキングにはEV車用のチャージャーが並んでいるが、店舗の入り口に一番近い所に2台分のチャージャーが設置してある。脱炭素はこんなところにも現れている。一ヶ所しかない出入り口に近づくと自動ドアがスーッと開いた。なんだかコンビニに入るような感じだが中に足を踏み入れると店舗は意外と広く普通のアメリカのスーパーと同じくらいの広さだ。右も左も分からず右側にある駅の改札のようなみどり色のゲートが5つ並んでいるところ(当然無人)に近づいてみた。SCAN TO ENTERと書いてあるのでスマホにAmazon appアプリをダウンロードしてそこに出てくるQRコードを読み取ってパネルと思われる所にかざせば入れるかな?と思ってやってみた。スマホにダウンロードは出来たが上手くゲートが開いてくれないので、さて困ったなとまわりを見回すと銀行のATMのようなキオスクが3台並んでいた。画面に従って操作すると、クレジットカードを登録して左右の手の平を読み込んで、どうやら指紋ならぬ手のひら認証が完了して、自分のクレジットカードと手のひらが紐付けされたようである。Amazon Oneというらしい。空港で出入国するとき顔写真認証してパスポートと紐付けるのと似ているなと思いながらみどり色のSCAN TO ENTERゲートに戻り読み取りパネルに手のひらをかざしたらパネルにある丸いマークがマッチしゲートが開いた。「Ohー!Enterできた」

売り場に入るとみどり色の壁に茶色い紙の買い物袋の束が置いてありGRAB  A BAGと書いてあるので一枚その紙袋をピックして買い物をスタートしてみた。売り場は一見普通のスーパーマーケットと変わらなく見える。果物・野菜売り場から始まっているのでまずは明日の朝食べるイチゴのパッケージをその紙袋に、そしてブドウとバナナを入れたところでなんとその紙袋があっさり破れた。あららと思ってもう一枚同じ紙袋を取ってきてダブルにしようと思い商品の入った破れた紙袋をそのままもう一つの紙袋に入れようと思ったらそれも破れてしまった。意図的にそういう素材を使っているのかもしれないが通常よりも破れやすい紙袋なので注意が必要のようだ。そういえばカート🛒がないなーと見渡したが店内には見当たらず入り口のドアの外側にみどり色のカートがあったので一度外に出てカートを持ってきた。イチゴとブドウとバナナをカートに移し替えて2枚の破れた紙袋は売り場に残して買い物を再開したがそれが後でちょっと問題になる。価格は少し高い感じがしたが最近のデフレによる値上がりはどこも一緒なのでこんなものなのかなと思いながら買い物を続けた。

壁に大きく“JUST WALK OUT SHOPPING“と書いてあるが、どうやって買い物した商品を確認して会計するのだろうか?と言うのが最大の疑問である。最初に書いたように人は1000年以上ものあいだ人間と人間が商品とお金をお互いで確認して交換し買い物をしてきた。自動販売機もあるが特定の商品に限らている。スーパーマーケットの店舗そのものを自動販売機にするためにはそれなりの仕組みが必要だ。今回の目的は買い物よりもその仕組みの解明である。と思って店内をよく見ると天井からたくさんのコードがぶら下がっているのに気がついた。コードの先には黒い小型カメラが付いている。なるほど、これが買い物した商品を確認する仕組みか。何100もの天井からぶら下がった小型カメラで売り場全体をモニタリングしているのだ。それをAIで機械的に分析して誰が何を買ったのかを察知して商品と客の手のひらを結びつけるシステムのようだ。IT企業Amazomらしい。

そのほかで店内で目についたのがワインを始めとするアルコール売り場だ。アメリカではアルコール販売の年齢制限が非常に厳しいので21歳にならないとお酒は売ってくれない。よって、キャッシャーがなくてもそのままお酒を持って店外に出られないように、アルコール売り場には店員がいて年齢確認しないと売り場に入れなくなっている。アメリカらしい。もう一つ目についたのが“PLANT  BASED“コーナーだ。今では当たり前になってきた植物由来の代替肉商品である。価格は通常の肉より高めだが最近は確実に売り場が広がってきた。Amazon freshでもしっかり品揃えして売り場を確保してある。

そんなこんなで一通り売り場を回って、さてどうやって帰ればいいのか?このまま万引き状態で店から出て良いのだろうか。そのまま進むと今度はオレンジ色のゲートがあってEXIT ONLYと書いてある。入った時と同じようにパネルに手のひらをかざすとゲートが開いてあっさり売り場から出られた。と、ここで大きな疑問が発生した。このまま帰って良いのならレシートはどこで受け取るのだろうか?レシートを見なければ全部でいくらの買い物をしたのか合計金額が分からないじゃないか。と言ってもゲートにレシートが出て来るような機能もないし、客が店を出るのを見張っている人間がいる気配もない。う〜ん🤔私はいったい幾らの買い物をしたのだろうか?支払いは手のひらとクレジットカードが紐付けられているから後から払えば良いとして、だいたい私が何を買ったのかカメラのデータだけで正確にチェック出来ているのだろうか。このまま帰るのも不安なので仕方がないからもう一度売り場に入って行ってカスタマーサービスカウンターに聞いてみることにした。

AmazonのA to Z矢印で有名なスマイルマークが大きく描いてある黄色のカスタマーサービスカウンターに行きそこにいる店員に、買い物は終わって一度出たんだがレシートはどこで受け取るのかを聞いてみた。すると30分くらいするとスマホに eメールされてくるからそれがレシートだと言う。もし間違いがあったらここに電話しろとカスタマーサービスの電話番号の書いてある名刺を渡された。すでに私のメルアドも知っているようである。いずれにしてもこのまま帰って良いようなので売り場に置いてあったJUST  WALK OUTと書いてあるみどり色のエコバックに商品を全部入れて、入店した入口と同じドアの出口からちょっと不安のまま店を出てパーキングに。車も充電が完了している頃だ。店に入るときには気が付かなかったが充電用のパーキングの横にCURBSIDE  PICKUPと書いてあるパーキングスペースが並んでいた。コロナ禍で入店できない時期に始まった、店舗に入らないでショッピングできるシステムだ。事前にオンラインで買いたいものをオーダーしておくとピックアップ時間が提示されてその時間に店に行くと店員が商品をパーキングまで持ってきてくれる。考えてみれば、これもキャッシャーなしの買い物だ。そもそもインターネットによるAmazon.comのeマーケティングにキャッシャーはいらない。そう考えればAmazonが実店舗のスーパーマーケットを始めたのも理解できる。従来型のスーパーマーケット(実店舗)での買い物とオンラインショッピング(eマーケティング)の壁がなくなって来たのである。

初体験のAmazon freshの総括をしてみよう。

1)先ず気がつくのが、みどり色を基調にしたストアーカラーと店舗の前に設置してあるEVチャージャーで、来店した客に環境に配慮した企業を意識させる。出入り口が一つしかない。

2)初めての客であっても最低限の試行錯誤で個人認証を完了させ、支払いのためのクレジットカードと、(既にアカウントを持っている客には)Amazon.comアカウントの登録情報と、本人の手のひらとを短時間で紐付けできるシステムになっている。

3)店舗の天井全面に(おそらくそれ以外の場所にも)無数の小型カメラが設置されていて客の行動を細かくモニタリングし買い物したアイテムをチェックするシステムになっている。

4)Shop freshと書いてある買い物用の茶色い紙袋は破れやすい。使わない方が良いかも。

5)プライスライン(商品価格)は若干高めな気がする。

6)手のひらの認証だけて出店(JUST WALK OUT)出来るが、レシートをその場で受け取れないのはシステムに改善の余地がある。オールデジタル化して環境資源保全のためにもペーパーレスにしようとしているのは分かるが、リアルタイムで買ったアイテムの照合と合計金額を確認できないので客に不安感が残る。ちなみに、現在はまだオープンしたばかりで初めて来店する客も多いから通常のレジが2ヶ所だけ設置されていてキャッシャーの店員が対応してくれる。

7)パーキングでのCURBSIDE PICKUPが出来るのはコロナ禍を充分配慮していて大変良い。

おそらく、パンデミックが終息しても店舗に入らずに買い物時間を短縮できるこのシステムを継続し、デリバリーサービスもその延長戦上に展開するものと思われる。車だけでなくドローンや自動運転カートによるデリバリーの実証試験も行われているに違いない。

8)総合点としてはまだ実験段階とはいえよく考えられたシステムと言える。(はたしてどれだけの万引き及び誤精算のロスがあるのだろうかという疑問は拭えないが)

その他、

9)Amazon.comでインターネット購入した商品のピックアップ・リターンがAmazon fresh

店舗でできる。

10)Amazon Primeのvisaカードを作ると5%オフになる。(チラシ参照)

さて、その後の顛末である。レシートがないことには買い物したのかしなかったのかも実感がないまま家に帰ったが、少なくとも買い物した商品だけは手元にある。ただ幾らの買い物をしたのかが分からない。するとカスタマーサービスカウンターの店員が言ったとおりAmazonから eメールが来た。どれどれと eメールを開くとここをクリックしろと書いてあるのでオープンして商品と価格の照合を自分で行う。買った商品の写真と品名・数量・価格がきれいに明記されている。オンラインショップでのAmazon.comのレシートと同じだ。そこで発見したのが、まずあの破れたので置いてきた2枚の茶色い紙袋がチャージされていた。一袋10セントである。そしてAIが間違えたのであろう買ってないオーガニックスイカが一個6ドル34セントで載っているのと、一房しか買っていないバナナの数量が2になっていた。AIもまだまだディープラーニングが足りないようである。早速カスタマーサービスに電話したらわりとすぐに出た(ご存知のようにカスタマーサービスの電話は、相手が出るまで長く待たされることがよくある)。Amazon freshで買い物したものだがeメールで来たレシートが間違っているのでリファンドしてほしい言うと、ハイハイという感じでこちらの話を聞いて返金の手続きを進めてくれた。そして9ドル80セントをクレジットカードに返金してその内容をeメールで送るという。マニュアルを確認しながら何回か電話をホールドして若干時間はかかったが、リファンドは比較的にスムーズに終わった。電話を切る前に訛りの強い英語を話すドナルド君に、ところで、どこにカスタマーサービスのオフィスはあるのかいと聞いたら、コロナ禍で在宅ワークだからオフィスではなく、なんと南アフリカの自分の部屋から電話をしているという。さすが、グローバル企業Amazonだ。

これが、今最も進んだテクノロジーを使ったアメリカのスーパーマーケットでの買い物初体験の一部始終である。自慢げに友人に話したら彼は新聞に入っていた20%オフのクーポンを持ってすでに行っていた。次回は私も20%オフにしてもらおう!

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