上野裕治の阿蘇レポート(2)

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阿蘇の野焼きについてのレポート、その2です。

今シーズンの野焼きは、大規模な野焼きが集中した2月28日(強風)、3月6,7日(雨天)が2週続けてキャンセルになったため、3月14日に多くの牧野が実施することとなり、ボランテイアも大変なことになりました。牧野が隣接しているエリアで同時に野焼きを行う「一斉野焼き」が、この日は西原村、北外輪山、そして私が担当する黒川牧野を含む南山(中央火口丘北斜面)の3カ所実施され、牧野組合からのボランテイア要請は26牧野、合計約350名におよびました。しかしボランティアもそれぞれ予定がありますし、一気にそれだけの人数が出役できるかというと、そうはいきません。ボランテイアメンバーには事前にこの日とこの日はできるという希望を聞いてありますが、牧野側からの決定を受けてすぐにメンバーを組んでも、全員に連絡できるのは4,5日前ということになります。結果的にこの日は約240名のボランティアが参加し、要請の7割ほどのメンバーで対応しました。仮にこの日も雨になったらと思うとゾッとします。ちなみに中止の場合はできるだけ前日までに全員に電話(またはメール)連絡しますが当日朝の場合もあり、事務局担当プラス前泊していたメンバーも加わって電話連絡するなど大変です。

その後3/20,21も雨天でキャンセルとなり、後半もスケジュールが少々乱れました。4月に入ってくると草も芽吹いて来ますので急がなければなりません。したがって後半に入ると地元の助っ人、ボランテイアの都合に関係なく、ウィークデーも実施されるようになってきます。そうするとボランテイアは私のような定年組が多くなり、一番若くて60〜65歳というような構成になってしまいます。ですから私もボランテイア・リーダーですが、リーダーは皆さん年間を通して一生懸命体力維持に努めているわけです。

写真1 阿蘇の焼き風景(阿蘇市・黒川牧野) 人が立っているところは採草地のため草丈が短くこの時点では安全であるが、このあとはすでに焼き終わった部分に移動する。

4月末で今シーズンのボランテイアが参加した野焼きが終了し、4月24日ボランテイァのリーダー会議が行われました。これは年に4回行われるもので、事前の確認事項、安全上の注意点、新規参加牧野の情報、使用する機材の整備などを行います。今回のリーダー会議は主に反省会ということになりますが、事故や飛び火が起こった場合の状況についての情報共有、今後の対処方法などが中心となり、非常に重要な会議です。今年の2月末現在でボランテイアの会員数は1000名を超え、その内リーダーが77名となっていますが、作業上の実感としては会員の1割、100名はリーダーが必要だと思っています。

写真2 野焼きが始まる前のミーティング(産山村・竹の畑牧野) 組合長の挨拶、注意事項、大まかな段取り、班分けなどを行う。

私の場合、今シーズンの野焼きは4カ所に参加しましたが、その中の黒川牧野を事例として、野焼きの手順を説明します。集合時間はおおむね8時〜9時ころで、全員集合したら地元牧野組合長からの挨拶と注意事項の伝達があります。その後、班分けをしますが、黒川牧野の場合は2班編成で、ボランティアもリーダーがメンバーの年齢、経験年数、体力などを勘案し2班に分けます。リーダーは原則として二人以上いますので、それぞれの班のリーダーを全体責任リーダーが指名し、各班のリーダーはトランシーバーで着火の状況等について連絡を取り合います。今回はボランティア10名でしたので5名ずつの2班としました。また基本的にリーダーはジェットシューターを背負います。山火事消火用の背負い式の水鉄砲ですが、満タンで約20L入りますので、自重を含めて20kg以上になります。軽トラックが入れる所は動力噴霧機を積んで消火をしますが、それ以外はジェットシューターが頼りです。火を消すにはやはり最後は水なのです。ジェットシューター以外のメンバーは火消し棒で消火します。竹とクズのツルで編んだ大きなハエ叩きみたいなもので、火をたたいたりゴシゴシこすったりして消火します。とにかく私達の役目は、あくまでも火を消すこと、飛び火を監視することなのです。

写真3 野焼きが始まる前の待機中 (産山村・竹の畑牧野) 装備としてはヘルメット、煙除けのゴーグル、マスクまたはタオルが基本です。オレンジ色のものがジェットシューター。(どちらも筆者ではありません)

地元の火付け役(「火引きさん」という)が火を着けていき、火消し役はそのすぐ後に間隔を置いて付いていき、防火帯以上に火が広がらないように消火すること、防火帯を超えて飛び火した場合にこれに対処すること、が役目です。良く勘違いされますが、火は基本的に防火帯沿いの風下から火を点けていきます。風上から点けると燃えすぎるのです。ですから着火してすぐはものすごい煙と熱の中での対応となり、そのためにしっかりした防火帯が必要なわけです。現場の状況や地形にもよりますが、風上から少しずつ火を入れて防火帯を徐々に広げ、安全になったところで風下や山の下から火を入れます。この時が野焼き景観としては一番の見どころでしょうね。また、阿蘇は観光地でもありますから、観光客が不用意に入ってこないようにしたり、車を一時的にストップしたりすることも、場所によっては役目として求められます。

写真4 消火作業の状況(阿蘇市・立塚牧野) 左側緑の部分がきれいに整えられた輪地(防火帯)。このようにこれ以上火が広がったり左側の森林に飛び火したりしないよう消火と見張りをしながら進んでいく。 この写真くらいの安全な幅が確保されると風上や斜面の下から火を入れることになる。
写真5 米塚の野焼き(阿蘇市・黒川牧野) 小さな火口丘で美しくて有名な米塚の野焼き。観光客の人気も高く、人止めも苦労する。
写真6 野焼きの見物客の状況 (阿蘇市・黒川牧野) 見物客は火の進む状況が把握できないこと、ファインダーを覗いていて周りが見えていないこと、などから危険にさらされることもあり得るため、ホイッスルや火消し棒を使って制止します。

ここで紹介したように輪地(防火帯)がしっかりできているところは良いのですが、そうでないカ所もあります。また谷筋で片側だけ焼くというような場合は、輻射熱でものすごい熱さになります。今年、ボランティアメンバーにも軽度の熱傷事故が数件ありましたが、気を抜けません。毎年用心しすぎることはない、毎年同じ牧野の野焼きでも初めてと思え、と言ってはいても、輪地切り作業を含めてやはり事故は起きます。このあと阿蘇の野焼きが存続するためにも、またこのボランティアが存続するためにも、事故だけは注意しなければなりません。阿蘇の草原環境維持のために野焼きは必要不可欠であり、そしてその野焼きはボランティア無しでは維持できないというところまで来ています。関係者の努力に加えて、野焼きボランティアの重要性はますます高まってきているといえます。

次回は阿蘇グリーンストックと野焼きボランティアの組織の現状などについて書いてみたいと思います。

阿蘇グリーンストック、ホームページ http://www.asogreenstock.com

写真7 筆者(阿蘇市・黒川牧野) 後方は米塚で、この時点では牧野の周囲が焼き終わっているので、燃えている風景のわりには安全な状況。腰に下げているのは救急セット、手に持っているのが火消し棒。

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