GIA会員 大門 龍博
筆者が関わりをもつ千葉県成田市の公設地方卸売市場が来年(2022年)成田国際空港の隣接地に移転し、輸出を主力の事業とした新しい卸売市場に生まれ変わる。
🄫成田市
新市場では輸出用コンテナを積載可能なコンテナヤードやHACCP対応可能な加工処理施設等を備え、輸出手続きをワンストップで行える市場を整備し、輸出拠点となる。
また、既に輸出実績のある事業者が新規参入者として参加することが決まっている。
現市場は1975年に開場し、青果・水産・花きの卸売会社が業務を行っているが、建物の老朽化や耐震問題等から再整備の検討が行われてきた。
その結果、国内有数の国際空港を抱える地の利を生かし、輸出を主力事業として行う事を決め、
空港隣接地への移転・再整備を進めてきた。
この再整備計画の決定には成田市の考えだけでなく、国の考えが色濃く反映されている。
周知の通り、2012年に発足した安倍内閣は「攻めの農政」を標榜し、中でも農産物の輸出による農業生産者の所得の向上を政策として掲げた。
安倍内閣が発足した2012年には約4500憶円程であった農林水産物・食品の輸出額は2020年には倍以上の9900億円にまで増えている。
しかしながら、2018年には9000億円を超えた金額がこの2年は伸び悩んでいるのが分かる。安倍内閣は当初2020年には1兆円の目標にあげたが、結局達成はできなかった。
伸び悩みの状況が続いている中で、「2025年に2兆円」、「2030年には5兆円」というのが菅内閣の掲げている農産物の輸出目標の金額である。今まで以上に輸出に注力し、近年の伸び悩みを打破する為に農林水産省では①日本の強みを最大限活かす品目別の具体的目標の設定②マーケットインの発想で輸出に挑戦する事業者への支援③規制緩和等による輸出障害の克服といった3つの基本的な考え方をあげている。
また来年度には、農林水産省の大臣官房にあった国際部を「輸出・国際局」に格上げし、他局の輸出関連部署を吸収するなどして体制強化に努めるとしている。
このように輸出に注力する政策は菅内閣でも継続されており、昨年度の補正予算及び今年度(令和3年度)の予算では輸出関連の予算はもちろん、他の補助事業でも輸出に関する条件が増えるといった傾向がみられる。
成田市場の話に戻るが、新市場の整備に関しては、企画の段階から農林水産省の支援を受け、補助事業の一環として進められており、建築段階では総工費の20%弱にあたる20億円以上が補助されている。
このような事例は成田市場に限った事ではなく、卸売市場の輸出拠点化だけでも京都、大阪、東京などで整備が行われており、手続きの一元化は福岡で実施されている。
また、先の基本計画ではこれまで以上に、輸出向け施設の整備、輸出向け産地の取組を重視する内容となっている。
これらの施策はHACCPやGAPの導入を前提しているものが多く、既に進行している農業労働力としての技能実習生の増加とともに、生産地の国際化を促す結果になると筆者はみている。
ところで、昨年からのコロナ禍は一時的な輸出金額の減少を招いたが、その後急速に回復し、本年1月には758億円(前年比40.4%増)となっている。
図)農林水産省統計資料より大門作成
1月の金額を国・地域別にみると1位香港(177億)、2位台湾(118億)、3位アメリカ(105億)であり、以下中国(99億)、韓国(37億)、ベトナム(36億)、シンガポール(30億)、タイ(28億)と続いている。タイのみが前年同月比-0.9%だがその他の国は17%(韓国)~124%(台湾)増となっている。
品目別ではアルコールを含む加工食品が306億円と多く、水産物114億円、青果物60億円、畜産物43億円、林産物31億円となっている。
青果物の内訳をみるとリンゴが40億円を圧倒的に多く、いちご9億円、かんきつ類・ながいも・かんしょが各2億円である。
輸出先はインバウンドで来日する国々と重なる部分が多く、来日できない分自国での輸入消費が進んでいる可能性が高いと筆者は考えている。
また現在の輸出先の多くは比較的規制が緩い国が多い。これらの国々で数字を伸ばすのは大事であるが、EUやアメリカ等の比較的規制が厳しい国での実績づくりも、5兆円の目標を達成するには必要である。
その為には、産地、加工施設、市場等の国際基準対応はますます重要になると考える。
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