資源の少ないネパールで観光と並んで重要な産業は農業である。この国の主要産業である農業を見ようと今回ポカラの次に訪問したのはインドとの国境沿いにあるChitwanと言う農業地帯。定期バスで行く方法もあったが時間がかかって遅いと言う事でポカラの南東に位置するチットワンまで乗り合いのワゴン車に乗って行く事になった。ネパールでワゴン車と言うとTOYOTAハイエースの事を言う。街の一角にタクシーやバスの発着場とは別にTOYOTAハイエースばかりが並んで停まっている場所があってそこに行くとそれぞれのワゴン車の運転手が客引きをしている。
その一台に乗って出発を待つがなかなか出発しない。ガソリン代が同じなら出来るだけ多くの客を集めようとするからだ。すぐ出ると言いながら30分位待たされて午後1時過ぎにいざ出発。荷物は車の上のキャリアーに積んで車内には母親に抱かれた子供を含めると18人それに運転手を加えた満杯のTOYOTAハイエースが元気よく走り始めた。ポカラの町を離れるとすぐに田園風景になるがチットワンまでどれ位かかるのかと聞くと2時間位だと言う。料金一人5ドルだから2時間で500円ならまあいいかと思ったのが甘かった。地図上で見ると直線距離で100km位にしか見えないポカラ−チットワン間だが山の多いネパールの道はアップアンドダウンが激しい上にワインディングロードだから簡単には進まない。その上追い越し車線のない一本道だから前に遅いトラックがいるとスピードが出せない。結局4時間位かかってチットワンのソラと言う町に着いた。チットワンはポカラに比べて標高がかなり低いので一気に暑くなった感じだ。ワゴン車を降りてTシャツ一枚になりふと街を見ると「JAPAN」と大きな文字の書かれた看板が何枚も並んでいた。後で詳しく話すが、今ネパールでは一大日本ブームである。最近日本でネパール人が増えたと感じている人は多いと思うがその舞台裏をPart 4でリポートしたいと思う。
そのJAPANの看板の下に何やら大きな石像が。よく見ると動物のサイである。そう、チットワンにはChitwan National Parkと言う野生動物保護区があって野生の一角犀がいることで有名なのだそうだ。ロングドライブで腹が空いたのでインドとの国境と平行して東西に流れるラプティ川沿いのアウトドアのレストランに行くとバーベキューのいい匂いがしていた。
犀の他に象や虎もいると言う川向こうのジャングルにゆっくりと沈む夕陽を眺めながら、先ずはビールで喉を潤してバーベキューに被りつく。観光客でいっぱいのレストランは川辺に椅子とテーブルを設置した野外レストランなのでネパールの何処にでもいるストリートドックが客のテーブルの周りにうろうろしていて食べたバーベキューの骨を投げると美味しそうに齧っていたが、これが後で大変な災難になるとは思いもよらなかった。
チットワンは気候も温暖で大きなラプティ川が流れる平坦な農業地帯だが、ナショナルパークでのアドベンチャーツアーで野生の動物を観ようと世界中から観光客が集まる観光地でもあり山と湖のポカラとはまた違ったグリーンツーリズムが盛んな所のようだ。それを当てこんでか、土地のある農家が母屋の横にホテルを建てるから田圃や畑のど真ん中に場違いな4階建くらいの四角い建物があちこちに建っている。バーベキューとビールで腹一杯になった後そこの一つにチェックイン。部屋を増やす為に増築中であったところを見ると2020 Visit Nepal Lifetime Experienceに向けて観光客が増えているのだろう。
翌朝早く目が覚めたので3階のバルコニーから朝陽の昇り始めるのを眺めていたら畑の向こうから何やら大きな物体が。農道を歩いて来る一匹の象さんに遭遇。背中に子供が1人乗っているから野生の象ではないようだが町の中をのっしのっしと当たり前に象が歩いているのを見ていっぺんに目が覚めた。二頭立ての水牛を引いて畑を耕しているところもまだ見られる何とも長閑かな農村に場違いなホテルと象。なかなかユニークな光景である。
朝食後そのチットワン周辺の農業視察に行く事になり最初に行ったのが投資組合が資金を集めて運営していると言う牧場。500頭くらいの酪農場でインドから技術を導入したのか近代的な酪農をしていた。ホルスタインが主だが毛の赤い牛も少し混じっていて、左右15づつ搾乳機が向かい合って並んだ30頭同時に搾乳できるミルキングパーラーがあり綺麗に管理されていた。1日の乳量は1日2回の搾乳で一頭あたり約30kgと言うからまあまあじゃないだろうか。今までネパールでは農家が自分達の住居と屋根つながりの牛舎に牛を数頭飼っているのしか見たことがなかったので近代的な酪農技術が ネパール国内にあるのを見て今後の農業発展が期待できると感じた。
次は野菜を作っている畑を見に行うと車で向かうが途中一面の麦畑の間を抜ける道はけっこう綺麗に舗装されている。地方の町で綺麗に整備できるのに何故首都カトマンズ市内はあんなに凸凹なのか不思議だ。15分ほど走って車を降りトマト畑の脇を通って大きなカヤを張ったようなハウスに行くと農場の労働者達がちょうど休憩時間に食事をしているところだった。あんな若者達が手伝いに来てくれたら日本の農家はさぞかし助かるに違いない。
10アール程の広さを白いビニール性のカヤで囲った様なハウスでピーマンが生産されていたが 害虫も入らないので収量が露地栽培に比べて2割程アップすると言う。天井面も白く平らに覆ってあるので雨が降った時はどうやって水が捌けるのかと思っていたら天井面は白く見えるが目の細かいネットになっていて雨はそのまま通り抜けるのだそうだ。これもインドの技術だろうか日本やアメリカではあまり見たことのないカヤハウスである。しかし、こう言った施設園芸的な農業を今までネパールで見かけなかったので畑作においても近代農業技術の導入が進んでいる様である。
ハウスの外に出ると露地のネギとトウガラシ畑が広がっていたが畑の向こうに大きな工場の様な建物が見えたのでこんな農業地域に何があるのかと聞くとビール工場だと言う。どうりで辺り一面の麦畑だったわけだ。そう言えばカトマンズでもポカラでもデンマークのCarlsbergビールの看板を良く見かけたがネパール人はよくビールを飲む。国産ビールも良質な大麦で生産されているに違いない。未だ二頭立ての水牛に引かせて畑を耕している所もあれば近代的農業もあるチットワンの農業地帯を視察して、インド15億人の大市場の隣国ネパールの農業は大きな可能性を秘めていると感じた。ビール工場を見たら喉が渇いたので一服して最後に向かったのは昨夜泊まった畑の真ん中のホテルのオーナーが経営していると言うバナナ畑だ。昨夜は遅くまでホテルで水煙草を吸いながら一緒に大騒ぎしていた。
何でも2年前に土地を借りてバナナ畑を始めたら植えれば植えるだけ儲かるのでどんどん土地を広げたら100ヘクタール位になってしまったそうである。まだまだ広げたいと意欲的だったが、となるとあのホテルはバナナ御殿と言うわけか。ここでも4年前の大地震は何処に言ってしまたのかと思わせるようなネパールの一面を見せてもらった気がした。
(To be continued )
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