寺野梨香
マレーシアは東南アジアの中でもシンガポールに次いで平均所得の高い新興国のひとつであり、マレーシア人消費者の購買力が高まるなか、その食品市場が注目されるようになっている。日本食ブームとも相まって日本食品への関心が高まるマレーシアの食品市場に積極的にアプローチする日本の地方自治体も近年増加している。このような自治体の船頭のもと食品企業や農家がマレーシアで開催されるイベントに積極的に参加し、特産物を紹介するために生産者として消費者との交流を活発に行っている。
多民族国家としてユニークな特徴を持つマレーシアのなかでも特に日本食ブームの火付け役となったのは華人系消費者であり、数々の日本食レストランや日本食材を扱う小売店を中心に日本食の人気を高めていった。一方でマレーシアの人口において6割以上を占めるマレー人はイスラム教徒として食品のハラル性を確保することを優先しなければならない。マレーシアで広がる日本の食文化へ興味を持ち日本食を好むマレー人消費者も増加しているが、彼らはそのハラル性の確保の難しさに直面してきた。このようななか、マレーシアで毎年開催されている国際ハラール展示会 (MIHAS)では、近年ハラル認証を取得した日本の食品企業が集ってブースに出店するなかで様々な商品を紹介してきたが、ハラル認証を取得した日本の食品企業数は国内外を合わせてもまだ限られている。
世界には多数のハラル認証制度が存在しており、日本のように複数の認証制度を有する国も珍しくはない。一方でマレーシアではイスラム開発局とよばれる政府機関がハラル認証制度のもと単一のハラル認証表示を付与している。自国のハラル認証制度の普及にも積極的なマレーシアは、世界のハラル市場のなかでグローバル・ハラルハブとしての躍進も試みており、その動向が注目を集めている。マレーシア国内では工業団地としてハラル食品の生産から流通までを管理することのできるハラルパークが国内外の企業誘致を積極的に進めている。ハラルパークではハラル性が保たれている原材料の入手や流通経路を容易に確保できることから認証取得やその保持に必要な環境が整うだけではなく、事業者に対する税制の優遇措置なども備えられている。マレーシアはハラルパークの日本進出も計画しており、日本国内でのマレーシアのイスラム開発局によるハラル認証取得が近々可能になっていくことから、マレーシアのハラル認証の取得をより身近に感じる食品企業が増えることも期待されている。このことからもハラル認証を取得する食品企業が増加し、マレーシアをはじめとするイスラム教諸国への日本食品の輸出はその品質の高さや食文化を好む消費者の中で今後拡大していく可能性があるという見方もある。
日本政府は2020年までに海外の食品市場への農産物および食品の輸出額を1兆円とする目標を立て需要の取り込みに向け様々な戦略を立てている。農産物および食品の輸出額は4,920億円(2010年)から7,451億円(2015年)へ増加しており(農林水産省 2015)、総額のなかではアジアが73.5%の輸出を構成している。今後、東アジアの安定市場に加え経済発展の目覚ましい東南アジア諸国への輸出は増加していくとも予測されており、マレーシアをはじめとするイスラム教諸国のハラル食品市場における日本の農産物および加工食品輸出の動向に一層注目していきたいと考えている。
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