板垣啓四郎
コロナ・パンデミックが食品関連企業のグローバル戦略にどのような影を落としているのか、非常に気になるところである。特にわが国の民間企業にとって輸出市場あるいは投資先として大きなプレゼンスをもつ東南アジア諸国におけるコロナ感染禍の状況とその収束の見通しは、企業の輸出・投資戦略を検討していくうえで決定的に重要である。
一口にコロナ感染の累積者数といっても、諸国によって状況はさまざまである。ベトナム、ラオス、カンボジア、タイといった大陸部はミャンマーを例外として比較的感染者数が少ないが、インドネシア、フィリピン、マレーシア、それにシンガポールといった島嶼部は多い。特にインドネシアは123万人(2021年2月15日現在)とその数が圧倒的である。いうまでもなく、感染者数はPCR検査の陽性者数であることから、検査数の規模によって数値は違ってくるであろうが、各国政府が発表した情報をそのまま受け取るしかない。
そうしたなかで、感染者数は国による違いはあるものの、おしなべて減少の趨勢をたどりつつあり、これからワクチンの接種が本格化していくことから、年内には収束していくものと予想される。その動きを見越して東南アジア諸国の食品関連ビジネスに強く関わっている日系の企業は、今後どのように展開していくべきなのだろうか。また企業投資家を受け入れる諸国の態勢はどのような準備をしていくべきなのだろうか。ここでは、農林水産省大臣官房国際部に設置されているGFVC推進官民協議会事務局が野村総合研究所に委託して実施した現地取材調査(オンライン調査)をもとにまとめたレポート(2021年2月17日発出)を手掛かりに、日系企業が多数進出しているタイとベトナムを対象に、両国のフードバリューチェーンにおいてCOVID-19が引き起こした課題と現地・日本企業の解決策・ビジネス機会をみていくことにしたい。以下、両国それぞれの課題と解決策・ビジネス機会についてポイントのみを対応させながら示す。
【タイ】
1. 農業生産の生産改革・非常事態耐性強化
→輸入・輸送制限に対する強靭化、スマート農機の活用、調達・販売のプラットフォーム利用など
2. 消費形態の変化に対応した流通構造の構築
→コールドチェーンの強化、O2O・DX対応、健康食・ミールキットなど新ニーズ対応等
3. 安心・安全確保の必須化
→自店舗・工場のみならずFVC全体を通した食の安全性の担保、トレーサビリティプラットフォームなど
【ベトナム】
1. サプライチェーン寸断によるFVC全体での遅延・コスト増加
→輸入・輸送制限に対する強靭化、道の駅(直販モデル)、流通プラットフォーム利用、コールドチェーンなど
2. 小売・外食の在り方変化に伴う勝者・敗者の明暗化
→世界品質への向上・高付加価値化、O2O対応、健康食・ミールキットなど新ニーズ対応など
3. 安心・安全確保の必須化
→自店舗・工場のみならずFVC全体を通して食の安全を担保、トレーサビリティプラットフォームの形成など
これからみてとれるように、農業生産においては労働力不足に伴うスマート農機の導入、加工においては家庭向け食料消費が増えていることを背景にした健康志向食品の開発、輸送においてはコンテナや輸送機器の不足に伴う道の駅などを利用した農産物の産直化、流通においては物流のコールドチェーンによる品質の維持管理、販売においてはDX対応や関係者によるプラットフォームの形成などといった解決策を日本の企業に期待し、また企業ではこれをビジネス機会として捉えている。そして、食品・農産物の安全性確保ならびにトレーサビリティのプラットフォームを、フードバリューチェーン全体を通貫した課題に掲げている。
こうした課題や解決策・ビジネス機会は、わが国が抱えている状況とほぼ軌を一にしている。家庭での内食志向加速化のなかで、O2OやDXによる流通・販売のオンライン化、輸送の迅速化とコールドチェーン、在庫保管機能の拡充、食品加工の高度化・多様化、農業生産のスマート化および農業資機材の安定供給を目指す方向である。コロナが収束すれば、インバウンドの観光客が戻ってきて、ホテルや外食などのサービス業もしばらくの間は制限付きながら営業が活発化していくものと見通される。そしてこのフードバリューチェーン全体は、安全性とトレーサビリティで担保されなければならない。わが国企業が有する経験や技術と知識、経営ノウハウを、現地の企業と密接にリンクさせながら移転あるいは製品や原材料を輸出していくなかで、with/postコロナの東南アジア諸国フードバリューチェーンはその機能を回復し発展させていくであろう。
そのために現地側においては、フードバリューチェーンを構成するそれぞれの部門によってプラットフォームを形成して情報や意志の疎通をより円滑なものにし、相互に働きかけあっていくことが何よりも肝要であろう。
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