23年2月、キャリアセンター職員・後藤光輝氏と共にオーストラリア・シドニーを視察訪問。
これは、コロナ禍で過去2年間に渡り途切れていたキャリアセンター主催のグローバル・キャリアプログラム再起を念頭に、23年度より農大生を新たにオーストラリアの大地での企業インターンシップに派遣しようとの狙いから実行されました。
今回の視察のミッションは大きく分けて二つ。まずはシドニーと言う街が農大生を派遣するに値する街なのか?治安・安全性・物価・受け入れ企業やホームステイ環境、また公共交通機関や日系マーケットや研修中の衣食住環境などに付属する生活利便性と周辺状況、更には現地日本人サポートスタッフや緊急時対応体制などを確認すること。
そしてもう一つは農大キャリアセンターとしての今後の知見や財産となるべき人的ネットワークを開拓すること。オーストラリアと日本とはヒト・モノ・情報あらゆる面で環太平洋国家として密な関係にあり、殊にオーストラリアに取って日本は最大貿易国です。そしてその中心たる第一の都市シドニーには数多くの日系企業が進出し、現地在住日本人が始めた様々なビジネスもあります。また留学やワーキングホリデーで活躍する若者なども含め多くの日本人達が暮らし、ハード&ソフト面で両国の貴重な懸け橋になってくれており、そのようなグローバルに活躍する方々に直接お会いし、キャリアセンタープログラムの主旨にご賛同いただき、将来の可能性を広げられるような出会いを求めての渡航となりました。
そして今回我々をご自分の日本食レストラン『鱒屋 MasuyaJapanese Restaurant』ご招待して下さり、自ら包丁を手にテーブルで新鮮な食材の食べ比べデモンストレーションを行って下さったのは、オーストラリアの『食』の第一人者、日本食レストラン王として知られる定松勝義氏でした。
定松氏は1961年、愛媛県松山市生まれ。事業をされていたお父様の死や事業の失敗など多難な青年期の中、当時22歳にて渡航者数も少なかったワーキングホリデー制度を使い渡豪。その後に永住権を取得。またハイアットホテル・シェフとして勤務をしながら世界各国のコンチネンタルフードを学び、1987年シドニー市内に念願のカレーレストランをオープン。その後1993年にはシドニー市内日豪羊毛貿易の先駆者として知られる商社、兼松江商の支社があった場所に『鱒屋レストラン』オープンを果たしました。2000年に行われたシドニーオリンピックでは選手団や関係者向けに約7,000食の弁当ケータリングを実施するなどダイナミックにオーストラリアの日本食を支えて来ました。現在では前述の旗艦店『Masuya Japanese Restaurant』を筆頭に『Izakaya Masuya』『Masuya Suisan』、ラーメンと居酒屋『Izakaya Michi』『Tonkatsu Miso』『Tonkatsu Casual Dining Miso』など数多くの繁盛店を構えると共に、日本レストラン協会の依頼により『酒と日本食材のフードフェア』開催、また代表を務めるコンサルタント事業『五徳企業集団』は日本の第一次産業である農業、畜産、漁業や、日本酒業界などの多岐にわたる食材のコンサルタントを行っており、特に近年大注目を浴びる食材である和牛(Wagyu)の宮崎牛、神戸牛、近江牛、岩手牛をオーストラリアに初めて輸入しました。日本政府や秋田県、岩手県、岐阜県など地方自治体の農産物の海外展開も手掛けるなど、多角的に『食』のあり方を捉える起業家でもあります。
そのような経歴を持つ定松氏が気に掛けておられるのは日本の将来と若者のキャリアについてです。
日本の食料自給率や南海トラフなどの自然災害時の人々の食と生活についてでした。農業は日本の食料危機が起こった際の生命線ですので、日本の自給率を上げる為にも農業の活性化が必要不可欠、つまり農作物の輸出と国際的販路の拡大も重要との認識をもっておられました。その為には農学系大学の活躍は不可欠だと断言されていました。
日本の若者に対しては、これまで鱒屋グループ自体が数多くの日本人の若者を採用し、海外に羽ばたくチャレンジを支援して来たものの、やはり近年の若者の失敗をも怖がる姿勢にはグローバル化の荒波の中にある日本にあって危機感を覚えずにはいられないようでした。氏はシドニーインターンシップに参加する学生には是非とも幅広い視野とチャレンジ精神、高い志を持って来て欲しいし、日本と海外(オーストラリア)の政治学の勉強会や大学同士の交流をしてほしい。多民族国家であるオーストラリアの政治・移民法・医療についての勉強会なども若者のキャリアと日本の将来をリンクさせる興味深い学びかも知れないとの提言も頂きました。
定松氏は勤勉な勉強家でもあります。常に全方向にアンテナを張り、数多くの本を読み、様々な人達と会い情報交換します。連日早朝からマーケットに出向き新鮮な食材、新たな可能性のある食材を求めて探索されるようですが、この晩に食べ比べ用にご用意下さったのは、ロシアントマトやオックスハートと呼ばれるトマト類、ピンクレディーと呼ばれる桃、ブドウ、マンゴーなどなど、どれも日本で同じように見えても産地や生育環境、旬で味が変わってきます。
日々このような微妙な味わいの違いや変化、そこにビジネスチャンスを果敢に探し求める探求心、失敗を恐れないで前進する勇気と行動力などなど、わずか数時間の会食でしたが学びと気づきの多いひと時となりました。
今後の農大生の世界のあらゆる場所での活躍を祈念し閉会となりました。
P.S. 定松様はじめ、当日お集まりいただいた皆様には心より感謝申し上げます。
-鎌塚俊徳
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