1.はじめに
TPP交渉における知的財産の分野は、
概ね米国を中心とする推進派と、それに反対する反対派との対立構造になっている。
具体的に何が争点になっているかは
テレビ、新聞、インターネット等のメディアから漏れ伝わってくる情報をかき集めなければ
その全体像は把握しにくいのが現状であるが、
ウィキリークスから流出したとされる文書から、TPP知財をめぐる対立状況が浮き彫りにされた。
『TPPウィキリークス流出文書~激戦区「知的財産」』(福井)を元に整理すると、
知的財産をめぐる状況は、大きく
①著作権に関する問題
②特許に関する問題
③商標に関する問題
④複数の法律にまたがる問題
に大別することができる。
そこで、今回は特に重点項目とされる著作権関連の問題について、
簡単な説明とこの問題についての私見を述べたいと思う。
【表1】TPP知財をめぐる対立状況
出所:福井健策,TPPウィキリークス流出文書~激戦区「知的財産」
主要11条項での交渉勢力図,2013年11月26日
2.米国にとっての著作権
ディズニー、ハリウッド映画、音楽、ソフトウェアに代表される
米国発の著作権が世界に与える影響はとてつもなく大きい。
2001年における関連著作権ビジネスを含めた米国の著作権ビジネスのGDPは
7,912億ドル(全体の7.75%)であり、その経済規模は、
化学品、加工金属、合成樹脂ゴム、電気製品、工業製品、飲食物、繊維、製紙、
飛行機、石油、石炭などの製造業よりも大きいというから相当なものである。
米国にとって著作権ビジネスは今や優秀な稼ぎ頭の一つであるから、
今後も著作権で世界各国から(TPPにおいてはTPP加盟国から)著作権料を徴収するという
ビジネスモデルを今後も継続していきたいと考えるのは自然な流れと言える。
3.著作権の保護期間のスタンダード
ここで、米国が著作権の保護に関して強く主張している事は何かというと、
著作権の保護期間を
①著者の死後70年以上
②作品の公表後95年以上
又は③創作後120年以上
とすることである。
日本はこれに反対しているそうだが、
日本の著作権法ではどうなっているかというと
①著者の死後50年
②作品の公表後50年
又は③創作後70年
となっており、米国が主張する保護期間よりもかなり短い。
しかし、米国のほか、欧州ではモナコを除き
全てのヨーロッパ諸国は米国と同じく著者の死後70年であり、
いわゆる先進国と呼ばれる国で50年の保護期間としている国は
マイナーな部類に属するのが実情である。
つまり、日本は世界的に見て、著作権の保護期間が短いマイナー国なのである。
また、シンガポール、スリランカを除き
東南アジア諸国はほとんどが50年の保護期間であるから、
TPP加盟を機に、米国の著作権を先進国と同様の条件で保護し、
著作権ビジネスをアジアでも堅強なものにしたいという意図が透けて見える。
4.日本にとっては追い風に
しかし、これは日本にとって決して悪い話ではない。
なぜなら、今や日本のアニ メ、マンガなどのコンテンツは世界中広く受け入れられ、
ものすごい人気だと言うし、政府もクールJAPANのかけ声のもと、
積極的に日本のコンテンツを売り込んでいるからである。
日本が世界的に競争力を有している分野だけに、
著作物の保護と利用とのバランスを取りながら、
日本の著作物が適切に保護されていけば、日本にとって追い風になる可能性がある。
吉永貴大
補足:「グローバル情報研究部会」設立記念フォーラムの講演者
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