日本はTPPへの参加を表明し、現在その交渉に参加中です。
TPPに参加するということは、
従来日本が各国と締結してきたFTAやEPAのように
「重要品目を対象外にし、両国にメリットのあるものについて自由化する」という考え方ではなく、
「原則として例外を認めず自由化(関税撤廃)する」という考え方に基づいて、
行く行くは完全な自由貿易が行われるようになるということを
視野に入れて考えていかなければならないと思います。
このような状況の中では、
日本農業にとってTPP参加がもたらすであろうデメリットとメリットを分析し、
デメリットを最小限に食い止めるための取組みと
メリットを最大限に活かすための取り組みの両方を真剣に考える必要があるものと思われます。
その意味では今回のTPPへの参加を日本農業再生のきっかけとして位置付け、
TPP参加問題以前からある日本農業の問題点も含め、
解決に向けた中長期的なビジョンづくりと
具体的な施策の実施を産官学一体となって実施することが求められるものと思います。
<具体的な取り組み案について>
〇 外国からの安い農産物の流入に耐え得る日本農業の体質強化
(TPPのデメリットへの取り組み)
* 国の補助金制度の見直しによる生産コストの削減
◇ バラマキ的な補助金の在り方を見直し、農産物価格に跳ね返る生産コストへ直接働く
きめ細かい補助金を創出し低コスト化につなげる
(農家にとって複雑な補助金申請手続きは単位農協が無償で代行する
=農協の存在意義を高めることにもつながる)
* 低農薬、有機栽培等並びに地産池消の奨励による国産農産物の安全・安心性の向上
(表示の徹底を含む)及び生産・流通コストの削減
◇ 低農薬、有機栽培等で農薬・肥料等に係るコストを少しでも削減すると共に、
国内産は安心という流れが定着すれば、消費者は多少高くとも国内産を購入する。
* 産地形成によるブランド品と地産池消による非ブランド品の棲み分け
◇ 専業農家=ブランド品、兼業農家=非ブランド品という棲み分けを検討し、
専業農家と兼業農家の競合を少なくする。
◇ ブランド品を求めない消費者には地元の産物が安く購入できるようなしくみを構築する。
◇ ブランド品は海外の富裕層への販路拡大も望める。
⇒輸出に係るコストについては一部国又は自治体が負担し、輸出促進をバックアップする
(TPPのメリットへの取り組み)。
〇 国外からの安い農産物の流入により
農業者が就農意欲を失わないように日本農業を活性化させる。
(TPPのデメリットへの取り組み)
* 農業が持つ食料生産以外の多面的な機能
(国土保全機能、二次的自然環境による情操教育機能等)
の評価とその維持を担っている農業者に対する正当な評価の確立(就農意欲の維持)
◇ 資格認定し、地域活動の講師として地域の活性化に貢献
* 若者が農業という職業に興味を抱くような職業教育と
就農までの具体的な道筋の提示(新規就農者の確保)
⇒ この点については、本学の役割も大きいのではないか。
本学の入学生の中には、「農業」というものに漠然とした憧れや親近感を抱き、
将来就農したいといった思いをもって入学してくる学生
(多くは家業が農業ではない学生)も結構いるものと思われるが、
多くの場合、入学後に農業そのものを目指す学生へのガイダンスといったようなものが
大学として用意されているわけではないので、きっかけが掴めないまま、
いつの間にか就農への思いも薄れていってしまうといったケースも多いのではないかと思われる。
そこで本学ならではの組織として、事務組織の中に「就農支援センター」
(兼務教員のセンター長1名と専属の事務スタッフ2名程度を予定)を設置することを提案したい。
「就農支援センター」では、将来就農したいと考えている学生を発掘し、
就農への具体的な道筋を示すと共に、農場の先生方や就農支援に積極的な先生方、
全国の校友会等とも連携して、実習先や就農先を斡旋するなど、
就農者を少しでも増やすための取り組み及び支援を地道に実施する。
また、学外からの相談にも応じる体制をとる。
このような取り組みは、間接的ではあるが食料自給率の向上にもつながるであろう。
〇 食品添加物や遺伝子組み換え食品に関する独自の安全基準の確保
(TPPのデメリットへの取り組み)
◇ 自由貿易を妨げるとの理由から輸入農産物への適用が認められない場合でも、
国内農産物は独自基準を維持すると共に、
最低でも食品添加物や遺伝子組み換え食品の独自の表示基準については、
輸入農産物へも適用させることを死守する必要がある
(外国より厳しい独自の基準をクリアしている国産農産物の安全性のアピール)
⇒ 現在政府が行っている交渉の中で条件として提示するよう働き掛ける必要がある。
東京農業大学総合研究所
長尾 聡
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