11.21 07:57
Bloomberg News
米国の感謝祭はこれからだが、ゴールドマン・サックス・グループは既に2017年に備えている。17日の顧客向けリポートで、チーフ・クレジットストラテジストのチャールズ・ヒンメルバーグ氏のチームが来年の金融市場の10大テーマを挙げた。
それによると、来年は「高成長、高リスク、若干のリターン向上」が期待できる。その見通しが来年の政権交代に大きく左右されていることは明らかだ。10テーマについてのゴールドマンの見解は以下の通り。
リターンは少しだけ向上へ
同社の2016年予想に比べると、金融資産からのリターンは改善が期待できそうだが、それでも低水準にとどまる見込みだ。「世界の株式で有望性の改善が最も大きいのは日本を除くアジアで、プラス12.5%のリターンが見込まれる(16年見通しは3.8%)。一方、日本株についてはTOPIX3.7%下落を予想する(16年見通しは5.2%下落)。」
米財政政策:成長押し上げ
トランプ次期米大統領が9日の勝利演説で保護貿易や移民制限よりもインフラ投資を焦点としたことをきっかけに、市場にリスクオンのセンチメントが広がったと、ヒンメルバーグ氏は分析。リポートは「市場は成長に飢えている。トランプ氏の成長重視のメッセージに飛び付いたことからもよく分かる。トランプ政権下の経済に関する市場見通しのキーワードが『不透明』から『成長』に変わったスピードからもそれが見てとれる」と指摘した上で、経済リフレに寄与する財政刺激を議会が了承する確率は高いとの見方を示した。
米貿易政策に関する懸念は行き過ぎていた公算大
貿易戦争が近い将来に起きることはなく、北米自由貿易協定(NAFTA)などの既存合意について再交渉が行われるとしても米製造業界の見通しを改善させる取り組みが中心になるとみる。「貿易戦争による下振れリスクを取り上げがちなメディアの論調は行き過ぎと考える」とし、懲罰的関税に関するトランプ氏の対応は実用的なものになるとみている。
新興市場リスク:「トランプ・タントラム」は一時的
米大統領選後に新興市場資産は米国債利回り上昇などを背景に急激に値下がりしたが、ゴールドマンはこれが向こう1年の重要なテーマになるとは考えず「過去において米国の高成長とともに米金利が上昇した時には常に、新興市場資産、特に株式とスプレッドの追い風となっていた」と指摘した。
出典:Bloomberg
トランプ氏と貿易:人民元に関してヘッジを
次期米大統領は中国を為替操作国と非難したが、最近の中国当局は人民元を安くするよりむしろ、外貨準備を活用して人為的に高く維持することに注力してきた。15年8月の突然の元実質切り下げは市場を混乱させたが、中国の政策は管理しながらの元安容認だ。ゴールドマンはこの傾向が17年も続くとみている。向こう12カ月で1ドル=7.30元まで下げると予想し、人民元安へのヘッジは「『中国リスク』に加えて『トランプ貿易タントラム』リスクに備えるものになる」とみている。
出典:Bloomberg
金融政策:信用創造に向けた措置に集中
日本銀行の長短金利操作は、相対的に短期の融資を提供する銀行の金融仲介のコストを焦点とする一連の新たな政策の試金石だとゴールドマンはみている。金融仲介機能の重視と「融資のための資金調達スキーム」のような措置への政策移行は、投資を中心とした実体経済における活動に最も大きなインパクトを与えるとゴールドマンは論じる。より焦点を絞った金融刺激策は、量的緩和やマイナス金利に伴う悪影響の緩和にもつながるとしている。
企業収入の伸びの鈍さに変化の兆し
ここ数年、S&P500種株価指数構成企業の四半期決算は売上高よりも利益がアナリスト予想を上回ることが多かったが、この「売上高リセッション」から米企業が脱したことが17年に確認できるとゴールドマンは予想。世界経済が底堅さを増し原油価格が今年2月の安値から回復したことで、増収率見通しが改善したという。その結果、S&P500種銘柄の営業ベース1株利益は10%増の116ドルとなり、年末の同指数は2200になると、ヒンメルバーグ氏は予想している。
インフレ率:先進市場全般で上昇
トランプ氏はインフレを高進させる大統領になるとの見方から、市場のインフレ期待を示す指標は急上昇した。減税、インフラ投資、国防支出が経済政策の目玉として挙がっている状況は「リフレへの処方箋」だとゴールドマンのチームは指摘。米国だけでなく日本と中国、欧州も公共投資を増やし、これらの国・地域でインフレ圧力が高まると予想した。先進国でインフレ率がオーバーシュートしても、物価上昇圧力が長期にわたって目標を下回ってきた先進国・地域の中央銀行はこれを容認するとみている。
クレジットサイクルは穏やか
クレジット市場の中で商品相場に影響を受ける部分は16年に痛手を受けたが、他の分野に広がることはあまりなかった。ゴールドマンは17年もほぼ状況と予想し、クレジットサイクルが悪化に転じるとはみていない。
「イエレン・コール」に「偶発的ノックイン」加わる
トランプ次期米大統領が大規模な財政刺激を約束したことで、17年はイエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長が景気拡大に伴い利上げに傾斜する「イエレン・コール」に「偶発的なノックイン」が加わるとし、同年の財政刺激の規模によっては米連邦公開市場委員会(FOMC)は「ほかの全ての条件が同じなら、金融環境の改善に対して一段と積極的な対応を迫られるかもしれない」とヒンメルバーグ氏は書いた。その上で、最近の米国債利回り上昇とドル高に言及し、向こう1年に金融環境が改善する保証はないとも付け加えた。
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