上海素描 その1

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私は西暦2,000年より国際教育プログラムの企画・運営に携わっています。

ここ数年、日本の大学の国際教育プログラムは方面も内容も多岐に渡り年々豊富になって来ていると感じます。一昔前なら『語学力』習得と『先進国から学ぶ』を目的とした英語圏へのプログラムが多かったのですが、最近は『国際ビジネスセンス』や『グローバル人材育成』『問題解決』『異文化理解』などのコンテンツを含んだ実習型プログラム、それも中国やASEAN地域へのプログラムの参加学生が増えています。

注目は遂に目を覚ました巨龍・中国と、ASEANの中でも成長著しいベトナムなどが人気のデスティネーションとなっており、私もここ数年はこういった地域でのプログラム展開が主な業務となっています。

 

特に中国と日本は地政学的にも歴史的にも切っても切れない関係性にあり、特に近年その多様化と深化が見られますが、日本メディアの論調はいまだ中国脅威論が主であり、国家に対して、更には人民個人に対してさえも威圧的で相容れない存在であるかのような伝え方が一般的です。そんな影響からか学生達の中国に対してのイメージは必ずしも芳しいとは言えないようです。しかしプログラム参加学生達には『メディアの言っている事を鵜呑みにしてよいの?』『決めつける前に自分の目で見てからジャッジしても遅くは無いのでは?』を提案を問題提起させて頂いています。

何故ならそれは現代の世の中の事象全てに対して言えることで、特にインターネット情報が溢れる昨今、自らの体験値では無く、手のひらに収まるサイズの小さなスリーン越し知り得る世界観こそ全てそして事実であるかのように思い込んでしまう学生達が驚くほど多いのも現実です。

 

実際に中国を訪れた学生達にヒアリングすると、数々の現地プログラムを体験する中で、ああ、やっぱり日本企業は厳しい環境の中で日々努力しているのだな。と既存情報に納得するシーンも多々あるようですが、自らが現地に赴き見聞きする体験を通し、人口が約14億人という事実は市場サイズが日本の10倍以上であることに加え、仕事やビジネスのスピードが驚くほど緩慢である場合もあるし、逆にとんでもないスピードと規模で進んでしまう事もあり得る、つまり常識では計り知れないダイナミックな世の中でもあるのだ。と感じることもあるようです。

 

目から鱗を落とす体験、自分の常識を打ち破る体験、は若者の視野を広げ、自ら思考する力を与えます。

 

上海の一角に、肩がぶつかるような小さな路地に様々なお店がひしめき合う、まるで原宿竹下通りの中国版と言った趣の田子坊と言う若者の街がありますが、ここに日本の学生達を連れて行った際に、日本人女子学生達がクレープのようなお店の前でオーダーをしようか迷っていた所、全く見ず知らずの中国人の若者が自分の持っているクレープをちぎって味見させくれたのだそうです。一般に中国人と言えばぶっきらぼうで粗暴、他人のことも気に掛けない、と言うようなイメージがあるようですが、『空気を読む』『親切心』『おもてなし』があったのでは無いでしょうか?

 

また最近では中国人が寿司を食べるようになったのでマグロ資源が枯渇すると共に価格が急上昇している、とまるで日本人以外はマグロを食べるな、とでも言いたいかのような論調があります。しかし考えてみると、海に囲まれた島国日本と違い、日本の約25倍もの広大な国土を持つ大陸中国で食べられていたのは川魚でありそれも蒸したり揚げたりするに限ります。それが近年の経済・文化的な成長、更には冷凍技術の進歩により内陸に住む人々が生魚の魅力に気付くのも至極当然なのでは無いでしょうか?中国4,000年の歴史で刺身に目覚めたのはごくごく最近の事なのですね。美味しいものは美味しい、は誰であっても共通の感覚なのでは無いでしょうか?

 

学生が上海を流れる長江を眺めて『川の色が茶色く汚濁しているのですね』と言いました。我々日本人はよく『過去は水に流そう』と言いますが、それは日本の国土は約80%が山岳地であり、流れる川は常に清く急流であるからで『川=清流』と思えるのが一般常識なのでしょう。しかし大陸ともなると川は河となり『悠久の流れ』と表現されるようにゆっくりと流れます。水が茶色いのは汚れているのではなく、赤茶けた水は有機成分を含み肥沃な大地を産む豊かさを示していたりします。『過去は水に流そう』と川に捨てたつもりが次の日も更にその次の日もまだそこにあったりするのです。川一つのエピソードを取っても、そこに暮らす人々の歴史や文化、習慣などが反映され様々な相違点を発見でき、自己の視野が広がり豊かになることを実感できます。

 

特に思考にも柔軟性のある若い頃、学生時代だからこそ、このように自分の目で見て、自分の頭で考え、自分の心で感じる、そんな体験を重ねることが大切なのだと思います。

これからも様々なプログラムを通して若者に気付きを与え、グローバルに活躍できる人材育成の一助になれればと願っています。

 

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1989年 農業経済学科卒

鎌塚俊徳



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