アメリカ家族農業の歴史と今日的意義(3)-「家族農業の運命」を中心に(2011発表)-

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7.アグラリアニズム (第3章より)

「今日の都市環境にある産業文化では、多くの人が農業と日常的な関わりを持たない。

われわれは大地との有意義な接触を持っておらず、

資源あるいは生命の維持者としての自然の大いなる営みを日常的に経験することは、

全くといってよいほどない。

このような文脈において、アグラリアン(agrarian)は、

切り離された人類と大地の不可欠かついにしえの絆を、真に再確立しようとするもの

―霊的であれ、物理的であれ、徳であれ、経済であれ―を特徴づけるのに用いられる。」

 

「鳴り物入りの宣伝もなく、ほとんど一般には気づかれないが、

アグラリアニズム(agrarianism)は再び広がりを見せている。

小さな街角や小区画で、出しゃばることなく、人々は大地とのつながりを復活させつつある。

アグラリアニズムは、広い意味で、

多様な思想、忠 義、感情、希望を含むべく食料生産と農村生活を超えた領域に達している。

それは一連の経済的方法であると同時に、気性であり、道徳的姿勢であり、

その神秘性と可能性によって形付られる。

ちょうど他の生命が大地の肥沃度に依存しているように、

『あらゆる場所に住む人々が大地のコミュニティーの一部である』という真理から湧き上がっている。

大地―場所、家、そして活きたコミュニティー―こそがアグラリアンの価値尺度を決定するのである。」

(Freyfogle, 2001)

 

8.今日の小規模家族農場(第10章より)

「今日のアメリカのほとんどすべての農業地域に、

強力かつ積極的な抵抗の姿があり、奮起を促している。

それらは、産業化した農業とは縁もゆかりもない目的と志をもち、

一世代前にはまったく想像もできなかったものである。

これら多くの多方面かつ広範囲に及ぶ努力に対して

『家族農場の救済』はあまりに意味が不明確で、スローガンとしては狭すぎるかもしれない。

『家族農場』は、これらの運動に体現された多くの多様な伝統的理想の簡便な表記として

用いることができ、実際しばしば用いられるが、おそらくあまりに後ろ向きであろう。」

 

そこでジェーガーは、これを「アグラリアン抵抗運動」と呼ぶ。

 

「このアグラリアン抵抗運動には、主要な推進力が二つある。

一つは、大規模な産業化、化学化、グローバル化した単作農業およびフィードロット畜産、

ならびに企業的経済力によって支配された合併巨大化した

食料産業などの荒涼たる肖像に対して、

経済的に実行可能で、前向きな代替方法を探索すること。

二つ目は、小規模農場や農場コミュニティーの運命、

農民と農業労働者の国内外における社会正義、商品の質と安全性といった、

より広範な社会的関心事に対して、実際的で有効な応答をすることである。」

 

ジェーガーは以上の抵抗運動の代表的な事例として、

有機農業、地域支援型農業(CSA)、ファーマーズマーケット、新規就農者ネットワーク、

農業女性ネットワーク、ニッチ農業、そして持続的農業を挙げている。

以下は持続的農業に関する一部分である。

 

「持続的農業―おそらく以上のリストのなかで最も重要な運動である―は、

ここ10年の間に大きな流れとなってきた。

これはこれまでに述べたすべての運動の潜在的なテーマであるともいえる。

持続可能性にはさまざまな重複する定義があるが、共通点は以下のとおりである。

すなわち、資源を浪費することなく、環境を汚染せず、実践者を貧困化させず、

永続的に継続することが可能なように開発・実施される、

社会的責任を負い、経済的に実行可能な農業である。

この言葉は、価値の世界において、かつて受託責任(stewardship)と

ハズバンドリーによって占められた領域を占めている。

よき管財人は、真の所有者の名において資源の世話し、

よきハズバンドマンは、資源の生産性を無駄なく汚染しないように使用する。

最初の移民が、これらの価値観をアメリカの岸辺には持ってこなかったことは明らかで、

これは家族農場に関する原初アメリカ理想の主要な部分ではなかった。

むしろ、ある地域では、これとは全く逆の考え方が支配していた。

すなわち、彼らは、被造物の管理者ではなく、資源の没収者であり、豊富な土地と資源を、

いたわり育み後世のために更新する贈物としてでなく、

無尽蔵に提供される補給品とみなし、採掘し、搾取し、使い果たした挙句に放棄した。

「ハズバンドリー」という言葉 は、初期のアメリカですでに廃れていたのだ。

持続的農業の思想は、20世紀の後半になってようやく結晶化したが、

それはヨーロッパのハズバンドリーの古い伝統や、

さらに古代の聖書的な受託責任にまで遡り、経済的に実行可能で、

しかも社会的・生態学的責任を負う農業へというアグリビジネス以後の展望を指し示す。」

 

家族農業が、必ずしも持続的農業ではなかったというジェーガーの指摘は、

家族農業を正当に評価するうえで重要であろう。

 

「100年前、テディー・ルーズベルトは、家族農場を指差すことで、

単純かつ自動的にコンセンサスを得ながら、

われわれの農業の伝統において何が一般に大事なのかをそれとなく示すことができた。

しかし、今日では、われわれの国の農業において最も重要なものに異議が唱えられている。

家族農業を指差しても、それは自動的なコンセンサス形成とはならず、

一世紀前と同じ明瞭な意味は持ち得ない。」

 

「家族農場のことをより正確に描写しようとしたとき、大切な暮らし方、

一家族で大抵のことが賄えるくらい十分に小規模、

まあまあの生活と経済的に成り立つ農場、生態学的・環境的に健康かつ持続可能、

地域社会の尊重、さらに農民に制御できない遠隔地企業体の経済的奴隷でない農場、

などを思い浮かべる。」

 

「家族農場は、その歴史的反響と今日の追い詰められた状況のゆえに、

産業化した農業システムへの有力な抵抗の象徴としても存在している。」

 

9.おわりに―「行動の時」その後―

最後に、レポート「行動の時」以降のアメリカにおける

小規模農場をめぐる状況について簡単に触れる。

まず、ジェーガーによるレポート「行動の時」の評価である。

かれは本書のまえがきのなかで、以下のように述べている。

 

「数年前小規模農場に関する国家委員会が多くの説得力ある勧告を含む

賞賛すべきレポート『行動の時』を刊行した。

しかし、それら多くの勧告について、連邦政府は未だ『行動の時』だとは思っていない。」

 

レポート自体の評価は高いが、その実施状況については手厳しい。

ちなみに、アメリカ農務省の小規模農場に関するウェブサイトによると、

「行動の時」以降、小規模農場の重要性と役割に関する政策は

1999年に農務省の条例(Regulation)となり、2001年までに146項目の勧告の

うち約80%が全部あるいは部分的に履行されたとしている(USDA,2003)。

 

 

次に、アメリカの農業人口の最近の動向である。

2007年の農業センサスよると、2007年の全米の農場数は220万4792件で、

前回のセンサスが実施された2002年から4%増(75,810件増)であった。

この間新規に設立された農場は29万1,329件、

離農あるいは吸収合併された農場が約21万6千件で、

両者の差が「増加」となって表れている。

全米の農家数は第二次大戦以降減尐傾向にあったが、

今回の結果はこの傾向に変化が生じつつあることを示していた。

 

一方、 新規就農者を農業者全体と比較すると、いくつかの顕著な特徴が認められる。

すなわち、2003年から2007年の間の新規就農者は、

1)経営規模が小さい(平均81ヘクタール。全農場平均169ヘクタール)

2)農業以外を主業とする兼業農家が多い(67%。全平均55%)

3)平均年齢が低い(48歳。全平均57歳)

などの特徴が明らかであった。

 

また、小規模な農業が増えつつある一方で、

農場の財政難と農業者の高齢化により大規模農場が増加し、

富の集中(市場の寡占化)が一層深刻化していることを示している。

例えば、2002年には144,000件の農場が全販売額の75%を産出したが、

2007年にはそれを約2万件下回る125,000件の農場がこれを産出した。

また100万ドル(約1億円)以上の販売額を有する農場が全体に占める割合は

2002年には47%であったが、2007年には59%に上昇した。

 

最後に、2002年から2007年までの5年間に、

アメリカ農場経営主の人口構成がさらに多様化した。

特に、女性農場主の割合が約30%近く増加し、ヒスパニック系農場主も10%増加した。

アメリカインディアン、アジア系、黒人系農場主の割合も増加した。

 

以上のように、2007年農業センサスによると、

アメリカでは農場数の減尐に歯止めがかかりつつある。

しかも新規農場の多くは小規模兼業で、比較的若い農業者が経営している。

農場主の人口構成は多様化し、女性農場主の増加が著しいのも特徴である。

一方で、大規模農場と小規模農場への二極化がさらに進んでいる。

また、ライフスタイルとして営む農場と

他の職業を退職後に就農した農業者が経営する農場の合計、

すなわち小規模な兼業農場がアメリカ全農場数の過半数を占めていた。

 

これは一般にアメリカでは農業のみで

生計を維持することが困難になっている状況を反映する一方、

ライフスタイルとしての農的生活がアメリカ人の間で徐々に

浸透しつつあることを示しているとも考えられる。

 

この他、2010年の全米におけるファーマーズ・マーケットの数は

「行動の時」が出版された1998年に比較して、約2.2倍の6132件に達した(USDA,2010)。

ファーマーズマーケットは小規模農場の直販先として重要で、

この数字は小規模農場の増加に伴ったものと考えられる。

 

投稿者

=-=-=-=-=-=-=-=-==-=-=-=-=-=-=-=-=

Joji Muramoto Dr.

Associate Researcher

Dept. of Environmental Studies

University of California, Santa Cruz

1156 High St.

Santa Cruz, CA 95064 USA

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